まずはじめに、ね
入隊する前にまず、最低限守って貰いたい事がある。
入隊の資格を問う前に、これだけは識っていて欲しい、いいね。
彼のことを好きでも構わない。愛していても構わない。けれど、この親衛隊に入隊するからには、その想いを決して伝えてはいけないよ。
わたしたちはどこぞの親衛隊のような、セックスフレンドの集団ではないのだからね。
わたしたちは、彼を支えるために存在する集まりだ。
彼もそれを識っているからこそ、親衛隊の存在を認め、時には対等に扱ってくださっているのだから。
その信頼を裏切ってはいけない。わかるね? 彼を支えたいと思うのならこの場に残りなさい。彼に抱かれたいと焦がれるなら、君はこの親衛隊に入るべきじゃない。
媚を売ることを悪いとは言わない。けれど、それだけの存在に成り下がってはいけないよ。
彼のために、なにより自分のために。
真に焦がれるなら、正面からぶつかるといい。
親衛隊という立場を使って、卑劣な真似をしようものなら・・・覚悟なさい。
この親衛隊は決して、他のそれのように華やかではない。それでも彼を支えたいという者だけが、残るんだ。
いいね、決して忘れてはいけないよ。これはこの親衛隊の、絶対の決まりごとなのだから。
(凛然とした眼差しでそう締め括った彼を、おれはとても眩しく感じた)
西条 静先輩の親衛隊。それは数ある親衛隊の中でも、特に過激派と謳われるところ。
そこに今日から、おれは
「宜しくお願いします」
....
一歩踏み出したあのときの、一年前の記憶。
懐かしいそれに頬を緩める。
あの時副隊長の任に就いていた先輩が、教壇に立って、あの時と変わらぬ凛然とした眼差しで言葉を繰り返していた。
一年前、おれが入隊するときと同じように締め括られたそれに、はっきりとわかれた一年生達の顔色。
それを眺めて、喉で笑う。二年生になったことを実感した。
「入隊希望者は各自名乗り出ること。親衛隊のメンバーなら誰にでも構わないよ。・・・それでは以上、解散。各自自由に動きなさい」
教室の中から見えないようにしゃがんだベランダで、一年の始まりに心を馳せた。
2010/10/22