かみ☆さまへ
「西条先輩、」
「なんだ? 東雲」
「離れてください」

ピシャリと東雲くんが言い放つ。いつもの笑顔を消して真剣な表情で向かい合っているのは、野性味溢れるかなりの男前である西条 静先輩である。ちなみに俺は東雲くんのクラスメイト。

「どうして?」

東雲くんの顔を覗き込むようにして聞く西条先輩。近い近い! 異様に至近距離である。というか、体勢がまずおかしい。寮の共有ホール、という名の憩い部屋のソファに座る二人。ここがおかしいのだ。東雲くんも西条先輩も、ソファなのに横に並んで腰掛けているわけではない。
どかりとソファに腰掛ける西条先輩の足の間に、向かい合う形でちょこんと納まる東雲くん。東雲くんの背中で指を組み、まるで抱き締めるような体勢の西条先輩。東雲くんの肩に顎をのせて、くつろぎきったその様子になんだか居た堪れない気分になってきた。ここ共有ホールなのに。


ソファに、男二人がこの体勢。東雲くんは本を片手に居た堪れなさそうにしているが、西条先輩はまんざらでも無さそうである。東雲くんがとまどったように西条先輩の肩を押して身体を遠ざけようとするも、背中にまわった腕の力が強いらしく少しも離れる様子はない。

「…ここ、共有ホールなんですが」

むすりと、少しだけ不機嫌そうにいう東雲くん。いつも微笑んでる顔しかみたことがないからなんだか新鮮だ。キレイだキレイだとは思ってたけれど、拗ねたような不機嫌な表情は可愛らしいという形容のほうが似合う。

「だから?」

しかし西条先輩は、そんな可愛らしい東雲くんにぐらりと傾いた生徒達を尻目に、意地悪そうな笑みを浮かべて東雲くんの頬に指を這わせる。肩から顔を離して、東雲くんと向き合う。

「東雲、だからどうした。ここが共有ホールだからなんだ?」
「・・・だから、共有ホールなんですから、こんな風にくっついたりするのは・・・」

むっとした東雲くんの言葉を遮るように、東雲くんの唇に指を乗っける西条先輩。にこりと、キレイな顔でキレイに笑う。

「なら東雲は、オレとくっつくのイヤなのか?」
「そ、れは・・・」
「イヤなのか。ふうん。悲しいなーまったく」
「い、いやとか、そういう・・・」
ことじゃなくて・・・

もごもご、とまごつく東雲くん。色素の薄い髪の間にのぞく、耳が赤く染まっていた。その顔はどうみても嫌そうじゃなく。でも西条先輩は、ふうん、と呟いて東雲くんの背中にまわしていた腕を解いた。浮かべていた笑みを消して、東雲くんをうながす。

「なら仕方ない。離れて良いぞ、東雲」
「・・・」
「・・・どうした?」

ん? と首を傾ける西条先輩をみて、きゅ、と口を引き結ぶ東雲くん。そんな東雲くんを不機嫌そうな顔を装いながらも、どこか楽しそうに見つめる西条先輩はどうみても確信犯だ。

「早くしろよ東雲。オレから離れたいんだろ?」

その言葉に口を結んだまま俯いてしまった東雲くんが、西条先輩の服の袖を掴む。切なげに震える指先で、きゅ、と掴んだ後に、すぐさま離した白い指で自分の口元を覆った。
そろりと視線をあげて、不機嫌そうな西条先輩の顔をみた瞬間、弾かれるようにして東雲くんが足を動かす。白い喉が震えて、薄い色の瞳が微かに潤んだ。

「・・・、っ」

震える両手で口元を覆う東雲くんの目が、西条先輩に嫌われたんじゃないかという恐怖から凍りつく。
―そんな二人を眺めるこっちからしてみれば、西条先輩が確信犯だということは駄々漏れであるが。


東雲くんの足が地面について、西条先輩の上から腰を浮かせる。そのまま踵を返して駆け出していきそうになった東雲くんのおなかに、西条先輩の長い腕がまわされた。思い切り引き寄せられて、駆け出そうとしていた東雲くんが見事にバランスを崩す。引き寄せられるままに、背中から西条先輩に倒れこんだ。喉の奥でちいさい悲鳴をあげて、いっそう強く口元を抑える東雲くんの手を、西条先輩が後ろからすくいあげる。

ちゅ、と可愛らしいリップ音とともにてのひらにくちづけを落とす西条先輩。

「泣くな、東雲」
「な、・・・泣いて、なんか・・・!」

東雲くんの白いくびすじに、西条先輩が顔をよせる。健康的な白い歯を、甘く首筋につきたてるのが見えた。噛んだ痕を舐めて、肩を震わせる東雲くんの赤い耳に唇をよせる。

「オレとくっつくのがいやか? あずま」

びくりと東雲くんが肩を震わせる。白い頬がどんどん赤く染まっていき、不思議な色をした瞳からぽろりとひとつぶの涙がこぼれおちた。

「・・・いやじゃ、ないです・・・」

震える声で、東雲くんが返事を返す。それに甘い笑みを浮かべて、東雲くんを抱き上げた西条先輩は満足そうに共有ホールを立ち去っていった。


そうなんだよ、ここ、共有ホールなんですから!
(そういうことは自室でやってください!まじで!)


(東雲くんの可愛らしい顔と、西条先輩のやたら色気たっぷりな笑顔に何人の生徒が倒れたことか・・・)(やばい、東雲くん可愛かった。キレイなだけじゃなかった)

(というか、いつからあの二人は付き合いだしたんだ・・・いや、お似合いだけどさ。・・・おれの初恋!)


2011/3/18


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