一万打御礼


「東雲」
「なんですか?」

最近、東雲くんと西条先輩が会話をしている姿をよく見かける。互いに親衛隊持ちであるということ以外に何も接点はないのに、二人の間を流れる空気はとても自然で、穏やかだ。

学年も違う。性格も違う。話が合いそうには見えないし、まず何処で知り合ったのかがわからない。

けれど。


「しーのーのーめー」

ぐしゃりと東雲くんの髪の毛を、西条先輩の大きな手が掻き混ぜる。さらさらと絡まることなく西条先輩の指の間を通り抜ける髪は、すごく触り心地が良さそうだ。

口元に穏やかな笑みを浮かべて、東雲君の名前を一音ずつ呼ぶ。

その呼びかけと頭を掻き混ぜるてのひらに応えるように、東雲君がけらりと笑った。しかしその笑みを見た瞬間、口元に浮かべていた笑みを消して西条先輩が手をどける。不機嫌そうになった彼は、けらけらと人を喰ったような笑みを浮かべている東雲君の頬を指で摘んで、ぎゅうと引っ張った。

「いたいれす、せんぱい」

美形ってなにしても美人なのだと実感。頬を引っ張られても醜いどころか可愛らしい印象を受ける東雲君は、舌足らずにそう言ってぺしりと西条先輩の腕を叩く。薄い色の瞳が微かに潤んでいる。どうやら痛いのは本当らしい。

「なあ、東雲」
「だから、なんれすか? せんぱい」
「……」

東雲君の白い頬が赤く染まっている。それを見て西条先輩は無言で指をはなす。そのまま、首を傾げる東雲君の後頭部に指を引っ掛けるようにして両手で東雲君の顔をはさむ。抓っていたせいで赤くなった頬を親指でなぞり、わらった。

「しののめ」

低く囁かれる名前は、どんな愛の言葉よりも甘く響く。なんだか睦言を盗み聞きしてしまった気分がして、むず痒い気持ちに襲われた。

「しののめ」

細く吐く息にのせて、名を囁く。頭を両手で覆うようにして掴まれたまま、東雲君がわらった。けらりとしたいつのもそれではなく、無垢な笑み。一瞬にして掻き消えたそれに、目を疑った。

「しののめ」
「なんですか、西条先輩」

いつも通りのけらりとした笑みを浮かべた東雲くん。西条先輩はそれをみても、今度は不機嫌にならずに満足気に笑った。そのまま顔を近づけて、東雲くんに…って、…わ、ちょっ!

「先輩、だめです」
「……いいじゃねえか」
「だめです」
「……」
「……、二人きりのとき…なら」

恐らく口付けでもしようとしたのだろう、近付いてきた西条先輩の口元をてのひらで押さえた東雲くん。そのまま至近距離で言葉を交わす二人、最後の言葉を放ったときの東雲くんは恐ろしく可愛かった。けらりとした表情を消して、目元を恥らうように染めながらはにかんで東雲くんがいった瞬間。

…………。

きょ、今日の図書当番なんだから僕がここにいるのは当たり前ですっ! だからそんなに睨まないで下さい西条先輩っ!!

じとりと睨まれてたじたじになる。口を挟むつもりはないのか、けらけらと笑ったまま東雲くんはこちらを楽しそうに眺めていた。


!!10,000HitThanks!!



2010/11/14→2011/03/03


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