かなさまへ
とんとん、と野菜を刻む軽やかな音が響く。ぐつぐつと鍋で煮る音とともにふわりと香ってくる、食欲をそそるいい匂いに西条は頬をゆるませた。


金糸のようなさらりとした髪の下に見え隠れする白いうなじ。そこから真っ直ぐに伸びるしゃんとした背筋と、細い肩。肩口の広い服を身にまとう東雲の、腰のあたりで蝶々に結ばれた黒いエプロンがゆらめく。西条の服を借りているせいでちらちらと肩甲骨が垣間見え、そのたびにみえる、白い肌にのこる赤い鬱血痕に西条は更に笑み崩れた。

西条の部屋で、朝から料理を作る東雲の後姿を飽きることなくじっと見つめる西条。

繊細な白い手が手際良く料理を作る様に、新妻のようだなんて思ってしまったり。新妻って良い響きだな、とか考えてしまったり。

先ほどまで東雲の後ろに立って間近で見ていたのだが、「邪魔なのでリビングで座っててください」なんて手厳しく言われたため渋々邪魔にならないだろうこの位置から見つめているのだ。まあ手厳しいことを言う東雲の耳が赤かったので、単に見つめられることが恥ずかしかっただけなのだろう事を察してしまってなんだか思いっきり甘やかしたい気分におちいったりもしたのだが。

「西条先輩」
「…」
「…西条先輩…?」
「東」
「…っし、…静、さん」
「なんだ?」

きゅ、と眉を寄せて東雲が振り返る。薄っすらと頬を紅潮させて、西条の下の名前を呼んだ彼は照れたように、「静」と紡いだ自分の唇を指先で撫でる。そんな東雲に笑いかけて、首を傾げる西条は明らかに確信犯である。

「…食器の準備をお願いします。」
「わかった。出来たのか?」
「一応。…その、御口に合うかどうかは、わかりませんけど…」

立ち上がって食器を取りにいく。自信なさ気に皿へ料理を盛り付けていく東雲。

食べる準備が整った机の上を見て、西条はぱちぱちと目を瞬かせた。エプロンを脱ぎつつキッチンから歩いてくる東雲に視線をやれば、不安そうに揺らいだ瞳と目が合う。

簡素な白い皿の上に乗る、料理の数々。朝御飯なため量は少なめで、しかしバランスの良さそうな色とりどりの料理に感心の息を吐いた。男子高校生が作る料理にしてはレベルが高すぎる、というかどこに不安になる要素があるのだ。

いただきますと手を合わせて、見た目通りの味の料理に舌鼓を打つ。料理を口に運びつつ、不安げにちらちらと目線をよこす東雲の頬に西条は手を伸ばした。

頬にかかる髪の毛を耳にかけ、そのまま形のいい耳をなぞって指先で輪郭をたどる。びくりと肩を跳ねさせた東雲に、ムダに色気たっぷりの笑みを向けた。

「東、嫁にこい」
「はっ!?、え、…な、…っ」
「料理上手で美人な嫁さん。欲しいと思うのは当然だろ?」
「な、ば、…、さい、西条せんぱ、っ、え」
「あずま、」

椅子から腰を浮かせて、驚きすぎて頬を染める東雲の唇に口付ける。ちゅ、と啄ばむように唇を落とせば、混乱しすぎて逆に落ち着いたのか赤い頬のままけらりと東雲は笑みを浮かばせた。

「よ、嫁もなにも、…俺は男ですよ?」
「あんなに可愛く啼くんだ、男でも…というかアレだな。」

昨夜のことをにおわせると、ますます東雲の顔が赤く染まる。

食べている途中の料理をそのままに、東雲の身体を抱き上げる。慌てて暴れる東雲の抵抗もなんのその、悠々とした足取りで西条が向かう先は寝室である。


「さいじょう、せんぱい…」
「あずま、下の名前でよべ」

ふわりとベッドに優しく下ろして、そのまま西条は東雲に覆いかぶさる。

「し、ずる…さん、」
「男とか関係ねえ。」

ちゅ、と色素の薄い目元に口付け。身体を強張らせる東雲にうすく笑んで、首筋に噛み付くようにして痕を残した。

背中にまわされる東雲の腕を愛しく感じて、ぎゅっと身体を抱き寄せる。耳元で光るピアスに舌をはわせて、耳に息を吹き込むように西条は囁いた。


「東、お前がいい」


2人の休日は甘く過ぎる。腰を痛めた東雲のかわりに、料理を温めなおして甲斐甲斐しく東雲の世話をする西条の姿がみれたとか。


2011/1/17


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