02
であい



生徒会室は、校舎から離れた場所に建っている。校舎にも一応生徒会室はあるのだが、音楽室などの特別教室の並びにあるため一般生徒の往来が絶えないのだ。朝や昼休みなど使える時間が少ないときは校舎の方を使うが、放課後は生徒会の面々を一目でも拝みたいという生徒達の気配が煩わしいため校舎から離れた方を使用している。

生徒会室から外に出て、溜息を吐く西条。自分が悪いのは分かっている。体格的にきっともう少しでも乱暴に振り払っていたら、今池はよろけるどころか倒れていただろうから。紅葉が暴力などを嫌うのはわかっていたことだ。悪いのは分かっているのだ、分かっているのだけれど…。

溜息。
仕方ないから、今日は寮に戻るか。そう思って足を進める。その途中でふと、森の中に隠れるようにして建つ洋館に気付いた。

首を傾げる。こんなところに洋館などあっただろうか。自然とそちらに足を向けた。何か面白いものでもあればいいのだけれど、そんなことを考えながら。

「…図書室、か…?」

音も無くすべらかに開いた扉。独特な紙の匂いが鼻をくすぐる。所狭しと並んだ棚、詰められた本。図書室なんてあったのか…小さく呟いて室内に足を踏み入れた。
きょろきょろと辺りを見回しつつ、図書室の中を散策する。とくに目新しいものはないが、静かな雰囲気になぜだか落ち着いた。…ふと脳裏に、非難する紅葉の目がよみがえる。重い溜息を再び吐き出して、窓の外がよく見える席に腰を落ち着けた。机にだらしなく頭を預けて、目を閉じる。

不安そうにこちらを伺うコノエの翡翠色の目。非難がましく向けられる遠矢の視線。おろおろとうろたえた様子の今池に、滅多に怒ることのない紅葉の感情を押し殺した声。


悪いのはわかっているけれど、謝るなんてできない。矜持が邪魔をするせいでもあるが、謝ったところで今池と仲良くするつもりはないのだ。それならばいっそこのまま謝らないで、近付いてくるなと牽制し続ける方がいい。…しかしそれは、紅葉たち生徒会のやつらとの離別も意味しているわけで。


ぐるぐると回る思考の中。だれかに弱音を吐き出したい気分だった。うんうんと頷いて、聞いてくれるだけで良い。…だれか。



「…、」

人の気配を感じた。身体は動かさずに、背後の気配をさぐる。己の存在に気付いたのか、おそらく生徒であろうその人物が少しだけ息を呑む声が聞こえた。近付いてくる様子はない。ただ、空気が動いたからその人物が身体を動かしたのを理解した。…どうやら、出て行くらしい。


何も考えず、素早く身を起こす。す、と立ち上がって扉に視線を向ければ、今にも出て行きそうな生徒の後姿。華奢な背中に、染めているのか色素の薄い髪の毛。

急いでその生徒に近付き、扉を開けようとしていた掌に、手を重ねた。背は低くないが、西条よりは小さい。薄くて白い、華奢なてのひら。

「帰るのか」

そっと耳元に近づけて、呟く。ぴくりとその生徒が肩を動かして、次いで小さな声で囁き返してきた。

「用事を、思い出したので」

低くも無く高くも無い、耳によく通る声。
なぜだか顔が見たくなって、生徒のてのひらを離して、代わりに肩を掴んだ。少しだけ力を籠める、無理矢理振り返らせるつもりはない。振り返って欲しい、そう思って力を籠めた。

ほどなく、ぐるりと反転した生徒の動きにあわせて、ふわりと髪の毛がゆれる。こちらを向いた生徒の顔に、少しだけ息を呑んだ。
金糸のような睫毛に縁取られた色素の薄い瞳と目が合った瞬間に、ぞくりと背中に何かが走った気がした。

ふいに、その生徒が表情を変える。薄い唇を吊り上げて、瞳を猫のように細めるあからさまに作った表情。

けらりと笑みをこぼして、何の用ですかと生徒は首を傾げた。


2010/12/25


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