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これがはじまり



第一印象は最悪、それ以外の何者でもなかった。当たり前だろう?

「おれ、今池 潤っていうんだ! よろしくな!」

まず、オレが凭れて寝てた木の上から落ちてきた訳を聞かせて貰おうか。あとオレに直撃しといて何事も無かったかのように自己紹介を始めるなんてどういう神経してやがる。

「…西条 静だ。」

名乗られたからには一応名乗り返すが…。眉を顰めるも、今池と名乗ったそいつは何が楽しいのかにこにこと笑みを浮かべたままで。溜息を吐いて、目を逸らす。話をする気が全く起きない。

早くここから去れと念じた、ら。

「潤、じゅーん、どこ行ったんですか、潤ー?」

不意に、遠くから聞き憶えのある声が聞こえてきた。徐々に近付いてくるそれに、今池がしまったという風に顔色を変える。

「わーごめん! 紅葉先輩こっちこっち!」
「あっ、居た! 見つけましたよ、潤!」

今池の声に反応した紅葉と呼ばれた生徒が、焦げ茶色の髪を揺らして駆け寄ってくる。
秋山 紅葉、この学校の生徒会副会長を務める男だ。

「ごめんごめん! なんかちょうど良さそうな木が在ったから、つい登って寝てた!」
「寝て…!? あ、危ないですよ、落ちたらどうするんですかっ!?」
「ついさっき落ちたとこ! なんともないぜっ!」
「ええっ、もう落ちたんですか!? え、え、保健室に行きましょう、潤!」

にかっ、と元気一杯に腕を振り回す今池。慌てたようにうろうろと今池の周りを行ったり来たりを繰り返し、不安そうに声を漏らす紅葉。…それを眺めるオレ。なんだよこの状況。というか、紅葉は今池と知り合いなのか…?

「あ、静じゃないですか」

今気付きました、という風に紅葉が振り返る。事実、たった今オレの存在に気付いたのだろう。おっとりとした笑みを浮かべたまま、頭上に大量の疑問符を撒き散らして首を傾げる紅葉。

「こいつと知り合いなのか? 紅葉」
「こら、静。こいつって言っちゃだめですよ、人にはみんな名前があるんですから」
「…今池と知り合いなのか?」

にこにこと笑みを浮かべたまま窘められて、すこし口元を歪めて言い直す。紅葉は満足そうに笑って、今池の両肩に背後からぽんと手をのせた。

「こちら、昨日転入してきた今池 潤くんです。苛めちゃだめですよ?」
「ダレが苛めるか」

瞬時にそう言い返してから、転入という言葉を口の中で転がす。なるほど、物怖じせずにオレに話しかけてくると思ったら、親衛隊の存在を知らないだけか。上から下まで今池を一瞥する。にこにこと笑う紅葉につられて笑っている顔は、とくに整っているわけではなく。極々普通の一般生徒、という印象を拭えない。…が、ヤツは木の上から落ちてきて何事もなく自己紹介をはじめるようなぶっとんだ人格をしている事をオレは知っているわけで。
…あまり関わりあいたくない人物だな。

なんて評価を下した直後。

「本当に苛めないように。亮たちのお気に入り、ですから。きっと関わる機会も増えるでしょうし」

紅葉の爆弾発言に、顔を盛大に歪めた。亮とはちなみに生徒会会長の坂上 亮のことである。
亮"たち"ってことは、…他の役員たちのお気に入りでもあるってことか。


ぽやぽやと何もわかってなさそうな笑みを浮かべる今池をみて、溜息しかこぼれなかった。

どうなる、オレの学園生活。


2010/12/10


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