21
冬空の下で



結局あの後、秋園先輩はボロボロと泣く俺の手をひいて寮まで連れ帰ってくれた。辺りは真っ暗で涙こぼしながら子供のように誘導されて…今思い出すと死ぬほど恥ずかしい。

シャワーを浴びる頃にはなんとか涙は止まったが、それでも翌朝目覚めたときにはまだ目蓋は熱を持っていた。腫れて赤くなった目元を鏡で確認して、溜息を吐く。こんな顔じゃ学校に行けそうにない。けらりと笑みを浮かべてみたが、頬は引き攣っているし赤い目が間抜けすぎていけない。

仕方なく冷やしたタオルを目の上に乗せて、ソファにのんびりと座り込む。昨夜の秋園先輩の、子供に言い聞かせるような声を思い出して顔が熱くなった。



…ふいに、西条先輩の真剣な眼差しを思い出す。それにどきどきと胸が脈打って、呼吸が苦しくなった。気を落ち着かせようと深呼吸をして、ぬるくなったタオルを目の上からとってソファから立ち上がる。次は温かいタオルを目の上にのせて、再びソファに戻った。

しばらく、冷たいタオルと温かいタオルで交互に目を覆って、もう一度鏡で目元を確認する。だいぶひいた腫れに息を安堵して、制服に着替えた。
部屋でじっとしていると、西条先輩のことばかりを考えて落ち着かない気分になるから。


……今更と言われようと、西条先輩に想いを、伝えたいと思う…。でも切欠が掴めない。
図書室以外の場所で話したことがなかった。唯一の交流の場であった図書室に、もうきっと先輩は来ないだろうから。

またじわりと、目の奥があつくなった。それを振り切るように玄関を開く。部屋を出る直前に目に飛び込んできた制服のブレザーを掴んで、部屋を出た。

きっと先輩のモノであろうこのブレザーを、返しにいこう。その時に言えばいい。

そう、考えて。


でも、…。


ひきつけを起こしたように喉の奥がふるえた。廊下の向こう、先輩の後姿。先輩を見つけた。見つけたけど、でも…話しかけるなんて、……できない。

先輩のまわりには、生徒会のやつらと今池がいた。


ブレザーを指先で握り締める。そういえば、袋にもいれずにブレザーを裸のまま持ってきてしまった。三年生のカラーがはいったブレザーを、二年の俺が握り締めて廊下をうろうろする姿なんて…いったいどんな風に見えただろうか。

先輩を探すことに必死で欠片も気にしていなかったが、周囲の視線と、クリーニングにすら出してないブレザーを返しに行こうとしていたことが急に恥ずかしくなった。


先輩の後ろ姿に背を向けて、廊下を走る。出来るだけ生徒のいない道を選んで、屋上を目指して走る。
階段を駆け上がって、開いた扉の先に見えた空にほっと息を吐いた。

ぽろ、と涙が零れる。昨日のせいで涙腺が緩んでるらしい。いつも通りの自分に戻れない、…こんなに俺は弱かっただろうか。

ぐすぐすと鼻を鳴らして、扉のすぐ隣の壁に背を預けてずるずると座り込む。涙を堪えて、そのまま力なく地面に寝転がった。



冬空の下、先輩のブレザーを抱き締めて眠りに着く。


2010/11/26


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