19
声を殺して



足から力が抜けた。椅子にくずおれるように座って、けらり笑みを口から零す。力の無いそれは、すぐに別のモノに取って代わった。

ぽたん、と滴がこぼれる。顎を伝って落ちた涙が、膝の上に一つ二つと滲みを広げていく。
存在しないと思っていた涙が溢れて、どうしようもなく動揺した。



燃えるような瞳で見据えられて、どうすればいいのかわからなくなって。いっそその熱に身を焦がせたら、と。親衛隊に属しているというのに、そんなことを考えた。

願って願って願って、焦がれた。けれど、差し伸べられた手をとることができなかった。

だって、俺は親衛隊だから。


先輩の為と嘯いて、彼に近付く生徒達に制裁を下してきた。直接手を出したことは無いけれど、…それ以上に酷い手を使って。「あの子のことキライなんだよね」そうけらりと笑って言えば、俺の親衛隊が制裁をする。俺はけらけら笑って、それを見ない振りした。
確かに西条先輩のストーカーをしていた生徒達だ。西条先輩の私物を盗んだ生徒達だ。……その生徒達の殆どが、過激派と謳われる俺たちを恐れて、そういった行為でひっそりと己の想いを慰めていたのを、知っている。中には藤崎のような例外もいるけれど。

どんなに清廉潔白な決まりを掲げようと、俺たちも所詮「親衛隊」なのだ。西条先輩の目に誰も映したくなかった。確かに「少し接触しただけで制裁」などはしなかったけれど、それでも他隊のように制裁対象には陰湿なことをしてきた。……それなのに、今更。嫉妬に塗れた汚い手で、あの手を掴むわけにはいかなかった。


喉奥から溢れそうになる嗚咽を噛み殺す。

西条先輩に近づけないと諦めて、せめて彼の支えになりたいと綺麗事をいって。



勝手に駄目だと決め付けて、差し伸べられた手を振り払った。そんな俺が流す涙の、なんて汚いことだろう。


2010/11/18


prev next

MAIN-TOP

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -