想う、
結局ブレザーを返すことが出来ないまま、一週間が過ぎた。いい加減委員長に注意されたため図書室へいくことにしたが、だらだらとしていたら図書室の閉まる時間が迫ってきていた。すこしだけ早足で向かうが、それでも重い足取りに溜息。
久しぶりの図書室。独特な紙の香りがして、ささくれていた心が落ち着いた。ここだけは、以前と変わらず心地好い静寂がたゆたっているから。…外はもう薄暗い。中途半端に開かれたカーテンが目に付いて、黒味を帯びた青い空を眺めながらなんとなくそれを閉めに行く。
カーテンを引く直前、ふと視線を窓の下に投げれば、西条先輩が……いた。
どくりと心臓が跳ねる。先輩が生徒会の奴らと今池と一緒にいた。どくどくと高鳴る心臓を押さえて、先輩を見つめる。
今池と笑ってる姿。心臓がいたい、けれど。笑っている姿を見て、安心している自分がいた。
西条先輩の横顔を見つめてから、カーテンを開いたままにして踵を返す。そのままいつも先輩が腰掛けていた席に座り込んだ。窓の外にみえる空は、端からじわじわと墨色に染まりつつあった。……これが、西条先輩がいつも眺めてた景色、ね。
けらりと笑みを浮かべる。笑顔はうまく形にならないで、歪んで消えた。
一年前に先輩に助けられたあの日。衆目の中で跪くという屈辱すら笑みにかえてみせた俺を、周囲はただ見ているだけだった。立場の弱い一年生は傍観。場を鎮められただろう二、三年生はわらって俺を見ていた。周りを目が覆い尽くす、そんな中から唯一差し伸べられた手。
大したこと無いとわらった、大したことない何て、嘘だった。人前で跪くなんて、平気なわけが無い。
鮮やかに浮かべられた笑み、差し伸べられた手。
…あの時からずっと、俺はあの人に焦がれている。
だから。
「東雲」
「西条、せんぱい…」
憧れのままにしていたかった。でも、近付いてしまったから憧れのままにしておけなくなった。
想いが溢れそうになるのを、必死に蓋をする。
藤崎の絶望した顔を思い出して、ぎりと奥歯を噛み締めた。
2010/11/10