日常、非日常
「東雲」
最近図書室のかわりに入り浸るようになった屋上で寝転がって、空を眺める。どこまでも続く上天。ふいに俺を覆った影は、見かけるたびに話しかけてくるようになった今池のもの。
「東雲」
上から落ちてくる声が鬱陶しくて、寝返りを打つ。背中で無言を返してやれば、今池がむっと不機嫌になったのを感じた。
「しの、のめっ!!」
「痛っ!」
「やっと喋った!」
「…痛いって言ってるでしょ。離して」
「長文喋った!」
「…はじめましてで掴まれた肩、痣になったんだけど」
「悪かった!」
こいつの前だと途端に、けらけらといつもの笑みを浮かべるのが苦手になる。けれど顰めた顔をみせたくないから、いつも以上の労力をつかって笑みを浮かべた。
わらって責めてみれば、からりと謝罪をよこされる。悪いと思ってるなら今すぐ肩を掴む手を離せ。笑みを深める。
「なんで君さ、俺に話しかけてくるの」
「東雲が一人でいるから」
「…、そういえば、どこで俺の苗字知ったの」
「周りに特徴言ったらすぐに教えてくれた!」
「周り…」
「そ! 本当はお前の口から聞きたかったんだけどさ、お前なかなか教えてくれなさそうじゃん。」
「よく分かってるね」
「教えてもらえるまで、どう呼べばいいか困るだろ? だから、仕方なく!」
「……へえ」
からり、太陽のような笑みを浮かべる今池。真夏の太陽って感じ。暑苦しい。
それよりも、周りってだれ。……西条先輩だったら、何か…嬉しい気がする。特徴言っただけで、俺って…わかってくれたなら。うん、嬉しい。
「あ!!」
「…なに」
「もっかい!! 東雲、もう一回!」
「なにを」
西条先輩のことを考えて幸せにひたっていたら、今池の馬鹿でかい声に遮られた。鬱陶しい。そして肩が痛い、いつまで掴んでる気なのだろう。また、痕が残りそうだ。
今池の言葉に首を傾げる。もう一回? なにをもう一回?
「いまの笑顔、もう一回!」
「…。」
「それじゃない。 さっきの!」
「…意味、わかんない」
それじゃない、それじゃなくて。わめく今池。顔が歪みそうになるのを耐えて、薄く笑みを浮かべた。
「さっき、東雲すっごい幸せそうな笑顔だった!」
なに考えてたんだ?
言われたことばに、顔が赤くなる。幸せそう、って。何を考えてたかって言うと、西条先輩のこと、かんがえて、た…から…。頬が熱い。けらりとした笑みを消して、顔を背ける。本当は体ごとそっぽを向きたかったんだけど、肩を掴む握力が強すぎて断念した。
今池に、ペースを崩される。
"何時も通り"の毎日を繰り返せないことに、苛々した。
2010/11/4