10
スキになれない。キライにもなれない



転入生と、遭遇しました。


くありと欠伸をこぼす。転入生に遭遇した、というか制裁現場に居合わせましたって感じかな? なにこれ面倒臭い。けれども、目が合ってしまった以上何かしなきゃ駄目だろうな。

「…何してるの?」

密やかに溜息をこぼして、いつものけらりとした笑みを浮かべた。


「っ、し、東雲さま…っ!?」
「どうしてこんなところに、…」
「いや、それよりも、東雲さま! これは、その、違うんです!」
「そ、そうそう! 制裁なんかじゃなくて、そのこれは…!」

銘々鳴きだした生徒達にうんざりする。顔がいいのはメリットよりもデメリットのほうが多いんだよ、一方的に名前も顔も知られててその上"さま"付け。俺が西条先輩の親衛隊に所属してるから嫌悪はないけれど、親衛隊持ちが親衛隊を嫌がるのも少しわかる気がする。鬱陶しいんだよね、基本的に親衛隊って。

必死に自己弁護をする生徒達に邪気の無い笑みを浮かべる。自分の魅力なんて、使ってなんぼでしょう?

案の定、ほうと見惚れる生徒達。うんうん、わかりやすくていいね。


「彼は転入生なんだからお手柔らかに、ね? 親衛隊の君達の気持ちもわかるから、今回だけは見逃してあげるからお行きよ」

と、転入生には勝手に生徒達を帰す。まあ何も言わないから大丈夫でしょ。バタバタと盛大な足音をたてて逃げていく後姿を見送り、自分も踵を返す。折角サボりにきたのに、苦手な相手と二人きりになる必要なんてないものね。顔に浮かべていた邪気の無い笑みはとっくに消え去り、いつものように軽薄そうな薄い笑みが顔に張り付く。


「なあ、お前! ありがとな!」
「…どういたしまして」

一声返して、歩き出す。明るい声に、転入生の声をいま始めて聞いたとふと思った。まあ、すぐ忘れるだろう。

もう一度欠伸をこぼして、どこでサボろうかなと思考を切り替えた。…のに。


「オレ今池! よろしくなーっ! お前は?」

がしりと、己の腕を掴む転入生を肩越しに振り返る。

「内緒」
「へ?」
「ひーみーつ」

けらけら、笑う俺にぽかんと平凡な顔に平凡な表情を浮かべる今池。やっぱり見目は普通なんだよねえ。さりげなく腕をほどきながら、口端を吊り上げる。

「俺、きみと仲良くする気ないから。名前は秘密」

それだけ告げて、さっと歩き出せば痛いほどに強く肩を掴まれた。

「…オレだって、お前みたいな失礼な奴キライだっ!!」
「だったら、…離して。痛い」

笑みが引き攣る。ホント馬鹿力。噂通り腕は立つみたい。

「でも…っ! そんな顔して笑うお前を、ほっとけるわけない!!」

今池の言葉に、どくりと心臓が跳ねる。こちらを真っ直ぐに見つめる目に、息を呑んだ。

鬱陶しいと思う一方で、なるほどとどこか納得する。

学園の人気者達が今池に落とされる理由が、分かった気がする。ドクドクと心臓が脈打つ。あまりの真っ直ぐさに、先輩の言葉が思い出された。

「けどあいつらは、今池のその愚直さを眩しいくらいに真っ直ぐだといった」

眩しいね、うん理解できる。こいつは、こちらの目が焼き潰されそうなほど眩しすぎる。


けらりけらり。浮かべた笑みが、消える。


「ねえ、肩痛い。離して」



俺には、眩しすぎたようだ。


2010/11/01


prev next

MAIN-TOP

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -