09
いたいいたい、いたくない



最近よく笑うようになった先輩は、ふいに俺を揶揄っていた口を閉じた。

「なあ、東雲」

悪戯っ子のような笑顔を消して静かな笑みを浮かべる西条先輩をみて、心臓がいやな予感にざわめく。

「なんですか?」

しかしそれを押し隠して、首を傾げてけらりと笑いながら問い返す。俺の笑みをみた先輩は一瞬顔を顰めたけれど、しかしまた苦笑を顔に浮かべた。


「おれ、…最近アイツ平気に、なってきた」

あいつ、あいつ、あいつ。けらけらと笑い声をあげて、首を反対に傾ける。

「今池の、ことですか?」

転入生の、あいつ。西条先輩を独りにさせた原因。…なんて、逆恨みもいいところだろう。
まあ俺は、彼のおかげでこうして先輩と会話を交わせてるのだから、最初から文句なんていえる立場ではないのだけれど、ね。


遠くから見た今池は、噂通りの平々凡々な顔立ちをした、普通の男子高校生だった。


ああ、と。吐き出した息と共に返事をした先輩に、けらりとした笑みを向けて嘯く。

「ヨカッタじゃないですか?」
だって、彼のことを好きになれないから、独りでいたんだものね。

寂しかったでしょう?、とわらう俺に、俺の態度に慣れたらしい先輩は苦笑した顔を欠片も動かさずに一つ頷く。

「お前のおかげだ」

そう言って微笑みかけられたら、勘違い…するでしょう? 無意識なの?、悪い人。なんて荒れ狂う胸中で思う。

「俺は、何もしてないですよ」

けらけら。

「先輩が、彼を理解しようと努力した…だけでしょう」

元々、転入生の今池とそりが会わなかった為に独りでいた先輩の、寂しさに付け入っただけなのだ、俺は。それがいくら親衛隊隊長の意向だろうと、命令だろうと、受けたのは俺。西条先輩に近付きたいがために、独りの弱さにつけこんだ。
だから、先輩と転入生が仲良くなるということは。

この関係に、終わりが近付いているということで。


「おれは、アイツを愚直だと思っていた」

ぽつり、先輩が零す。

「けどあいつらは、今池のその愚直さを眩しいくらいに真っ直ぐだといった」

興味のなさそうな顔を作ってみせたけれど、それでも先輩は言葉を続ける。

「お前が居なかったら、おれは独りでただ荒んだ心で、今でもあいつらを倦厭していたかもしれない」

「…、へ、え?」

いつの間にか止まっていた、けらけらとした笑い声に動揺した。嘘は、得意なのに。けらけらと笑声がだせなくて、仕方なくただ飄々とした笑顔を浮かべる。

「お前がいて、独りにならなかったから。冷静な目であいつらを見ることが、できたんだよ」

だからお前は、おれの勝手な感謝をだまって聞いてろ。


穏やかにわらって、そんなこと…いわないでよ。

ねえ。
俺いま、ちゃんと笑えてる?


そろそろ、お役御免…かな。

「確かにアイツ、親衛隊に何されてもあいつらと居るしな。根性はすげえよ」

ニッ、と笑う顔に、じくりと心臓が痛んだ。


2010/10/29


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