06
隊長からの御命令



あの出会いから一週間と一日。たまに図書室に来ては愚痴を零し俺を揶揄って帰っていく彼に、抑えていた恋情の箍が外れそうになる。ああ、やばいな。

別に西条先輩は毎日来ているわけではない。俺も自分の図書委員の担当の日以外は来てないし…。月曜日に出会って、火曜日は俺が担当の日じゃなかったから行かなかった。水曜日に行ったら彼がきて、木曜日は来なかった。金曜日は担当の日じゃなかった。土曜日と日曜日は学内の図書室は閉められるため、もちろん会ってない。昨日の月曜日は会った。そんな感じだ。

あれから何度か廊下ですれ違ったこともあるけれど、決して彼は話しかけてこなかった。しかし図書室に行けば、常よりもすべらかな口で色々なことを喋るのだから、本当にこれが俺の妄想じゃないのか疑わしくなってきた。一人きりの図書室で危ない妄想、だなんて洒落にならない。

今日は火曜日。先輩は来てない。

貸出用のカウンターに顎を乗せて、小さく溜息を零す。視界にうつる己の薄い色をした髪の毛をなんとなく指先で弄る。図書室を利用する人間が極端に少ないのは、図書室の建っている場所が悪いからだろう。学校からみて寮とは反対側に建っているここは、学校から歩いて10分はかかる。無駄に金持ち揃いなのだから、わざわざ図書室に来ないで本を購入する生徒のほうが多い。

つまり、暇なのだ。今日は先輩来ないのかな、と考えてるところに足音が聞こえた。西条先輩かと思って上体を持ち上げる。が、しかし。

「こんにちは、東雲」
「秋園先輩…」

予想外の人物がいた。西条先輩の親衛隊隊長の、秋園先輩。にこりと微笑む彼は、親衛隊持ちの生徒に相応しい整った顔をしている。親衛隊隊長をしながらも、親衛隊をもつ彼。俺が西条先輩の親衛隊に属していることを知っている人。
そんな人が、俺に何の用だ? 警戒を悟られないよう、咄嗟に笑みを浮かべる。

「今日はどうかされたんですか?」

けらりとしたいつも通りの飄々とした笑みで首をかしげれば、先輩もにっこりと笑い返してきた。

「実はね、東雲。お前が西条と楽しそうにお喋りをしているところを見かけたんだ」
「…え、」

あ、まずい。ちなみにうちの隊では西条先輩を様付けにすることを禁じられてる。確かに、同学年とか見知らぬ生徒から様付けで呼ばれるのって居心地悪いもんな。そのため西条先輩と同学年の秋園先輩は、親衛隊隊長をしながらもクラスメイトとして西条先輩と普通に接している。……ってこんなことはどうでもいい。それよりも先輩はいまなんていった? 俺と西条先輩が、楽しそうはともかく会話をしているところを見た、と?

「ああ、なにも責めるために来たわけじゃない。頼みごとがあってね」
「頼みごと?」眉を上げる。「秋園先輩が、俺に?」

そんな俺ににこりを笑みを浮かべて、頷く。

「転入生がいろいろとこの学校の中を引っ掻き回してるのは、お前も知ってるだろう? そのせいで西条が苦しんでいることも」

無言で頷く。

「だからね、東雲。今の西条には支えが必要だと思うんだ。親衛隊として陰ながら、じゃなくて。」
「…? 親衛隊としてではない、支え?」
「そう。心の支えが、急ごらしらえのものでも構わないから。今の彼には必要だ」

それを俺に言うって事は、まさか。
顔色を変えた俺を見て、頷く先輩。

「察してる通りだ。別に特別なことはしなくていい。今のように、彼と話をするだけでいいから。」

任せてもいいだろう? 疑問系だけれども、命令の色を含んだそれに頷くしか出来ない。けれど、

「何で、俺なんです?」
「西条が君と話してるとき、ストレスを感じていないようだったからね。」
「…そうですか」

溜息を小さく漏らして、笑顔を浮かべる。綺麗な顔をした彼は、やはり西条先輩の親衛隊隊長なだけある。俺の意思に関係なく、ただ西条先輩中心の考え方。…まあ、気にしないけれど。

「俺でいいなら。」

軽薄そうな俺の笑顔に、秋園先輩はついと片眉をあげたけれど。それに対しては何もいわずにただ、頼んだよ、と微笑んだ。


2010/10/25


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