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(体育委員長視点)



あ、と思ったときには、己の両足は勝手に教室を飛び出していた。
後ろから教師の声が聞こえた気がするけれど、構わず走り続ける。



授業中は、窓際の前から三番目である己の席に座って、ぼんやりと空を眺めるのが日課。ノートはきちんととっている。部活一本で行きたいが、勉学も必要不可欠なものであるとわかっているから。

それでも今日はなぜか一段と授業が身に入らない日で・・・、いや、原因はわかっている。昨日のことが、ずっと気にかかって仕方ないのだ。

食堂から走り去っていった秋月。じゃなくて、麻埼に抱えられて食堂をあとにした陸、の方な。

前々から姿だけは知っていたが、先日知り合ったばかりの桂木陸を思い起こす。

身長はそれなりにある。なにか武術をやっていたかのように、ピンと伸びた美しい姿勢。凛然とした空気を纏い、どことなく神聖な雰囲気を漂わせる彼。真一文字に引き結ばれた唇が、昨日食堂へ行く道すがら木野から甘味を与えられた瞬間にほころぶのが気に入った。近寄りがたい空気を発しているのに、慣れた人間には甘える仕草をみせるのもかわいい。

そして昨日は、陸がゆらいだ瞬間を見て。秋月に手を握られて怯える彼に、庇護欲が、ほんのすこしだけ沸いた、なんて。

ぐるぐると頭の中をよくわからない感情が回り続ける。小さな子供に対するような、庇護の情か。それとも、。


ちょうど己の教室から見える渡り廊下を、まさに今脳裏を占めていた彼が背を向けて歩いていった。それだけなら、気になりはしたけれど放っておいただろう。

けどなぜか、後姿なのに。顔を見たわけではない、のに。

彼がひどく疲れているようにみえて。・・・―泣き出してしまいそうに、みえて。


そう思った瞬間に、自分の足は勝手に動き出していた。彼のみえた渡り廊下を目指して。





2010/08/04/


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