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(保健委員長視点)



もさもさの天然パーマを酷くしたような髪の毛。良く言えば素直、悪く言えばただの馬鹿。

「秋月道哉くん、だよねえ?」
「え、おれのこと知ってるのか? だれだよお前、」
「知ってるよお、知ってる。秋月道哉くん。両親が海外転勤のために、全寮制であり、また理事長が叔父であることを理由にこの誉学園に転校してきたんだよねえ。元々は栄高校に通ってたんだっけ。」

にこりと、よく不気味だと評される笑顔を浮かべる。口端を吊り上げて、目元を細めるだけの笑顔。笑顔でべらべらと喋られた己の経歴に怖じたのか、一歩後ずさる秋月道哉。それにますます唇を吊り上げて、一歩踏み出すボク。


桂木も雨宮仁もいない二人きりの廊下。

笑うボクと、かろうじて見える口元を引き攣らせる秋月道哉。


桂木は保健室に行かせた。釦の引き千切られた制服という酷い格好の上に、お腹の打撲と手首に押さえつけられた痣があったから。顔色の酷さも理由のひとつだけど。あーあ、我らが生徒会に手を出すなんて馬鹿なことするよねえ、あの三人も。まあ桂木だってことに気付いてなかったみたいだけど。あはは、今まで散々遊んでたみたいだし・・・麻埼譲に情報を流してあげようかな。特別にタダでねえ。・・・だって、ボクの興味をそそる珍しい人物である桂木に、手を出したんだから。


ああ、雨宮仁はその付き添い。一年にして荒くれ者として恐れられてるみたいだし、どうやら秋月道哉に好意 ― それが恋情か友情かは知らないけど ― を抱いてるみたいだから迷ったんだけどね。大事な人を無視されただけで心象が悪いのに、その大事な人はどんなに無視されようと桂木の気を引こうと必死だからね。喧嘩っ早いあいつはそれだけの理由で桂木のこと殴りそうだけど・・・あいつあれだから、捨て犬を見捨てれないタイプの人間だから。一回自分で、気付いてなかったとはいえ桂木のことを拾ったんだ。最後まで面倒くらいみれるでしょ。




・・・・・・ああ、そうか。

秋月道哉から目をそらして、二人の消えた廊下をみつめる。それからもう一度、ゆっくり秋月道哉に視線を戻す。


「おま、え・・・!なんで、おれのこと・・・」


こいつも、いぬに見えないこともないかもねえ。

あはは。


吠えるしか能がない、躾もされずにただ甘やかされて育ったいぬ。


「その変装、すっごく面白いねえ。」





2010/07/27/


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