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(第三者視点)



「・・・、おい」
「っ!」


廊下に腰を下ろしたまま、投げかけられた低い声にびくりと肩を震わす。怯える陸を見て面倒臭そうに溜息を吐き出した仁は、どかりと傍らの廊下にしゃがみこんだ。

「っ、な・・・に・・・」

切れ長の瞳で睨みつけるように見つめられて、陸がますます警戒を強める。そんな陸の格好を上から下まで眺めたあと、仁は陸の腕を掴んで立ち上がった。ぐい、と引っ張られるままに立ち上がった陸は、掴まれていない方の手で必死に制服の前を合わせて目を白黒させる。

掴んだ陸の腕の細さに驚いたのか、仁は眉を顰めてそのままずるずると陸を引っ張り出した。


「い、や・・・だっ、なに・・・」
「ごちゃごちゃうるせえ」
「うっ、」

低い声とともに鋭い眼光を浴びせられて、再びびくりと震える。朝から続くいくつもの不幸のせいで、いつもの凛然とした武士にも似た空気を纏えない陸。小型犬のように弱々しい雰囲気で、小さく肩を落とす。

しょぼんとした陸の姿に、仁はチッと舌打ちをもらす。



「・・・・・・んな姿でうろつくなんざ、襲ってくれって言ってるようなもんだろうが」
「・・・・・・・・・、え?」
「っつうかもう襲われた後か?」
「・・・う、」
「・・・、図星かよ。・・・まあ違うって言われても、そんだけ服乱れてたらウソだってわかるけどな」


一欠けらの笑みすら零さず、淡々と言葉を紡ぐ仁。行動と言葉があまりにも合ってなくて、陸は困惑しつつも小さく笑みを零した。


「・・・ありが、・・・とう?」
「っち、・・・勘違いすんじゃねえ。・・・てめえがオレと会った後に襲われるなんざ、気分が悪いだけだ」


青色の瞳がちいさく緩む。掴まれた腕は不快さを伴ってはいたけれど。いまは、その拳が陸に暴力をしないとわかったから。





2010/07/04/


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