03
(主人公視点)



来てしまった生徒会室。正確に言えば扉の前だけど、まだ中に入ってないけど。ぼんやりと足元の赤絨毯を眺めて、(誰もいませんように)と祈る。
悩んで十分、意を決してドアノブに手をかけた。

「・・・」

ナニコレ。なんだ、これは?

「道哉ー、口開けてー!」
「あーん、って!」
「? あーん」
「「クッキーあげる!」」

にっこりユニゾンしてクッキーを与える一年生徒会補佐の彩音兄弟。兄が颯太で弟が風太。一年の中でも話題の美形双子らしい。

「道哉、紅茶淹れましたよ。颯太に風太、道哉にくっつきすぎです」
「おれ紅茶好きなんだよ! ありがとなっ、満!」
「っ・・・!」

オタルックのよく見えない笑顔に顔を赤らめる、二年副会長の更科満。腹黒で有名な綺麗な顔をした男。顔を赤らめる意味がよくわからない。

「おい、口の端にクッキーついてるぞ」
「あ、ありが・・・! っ! 自分で取るっての! 舐めるなよ竜!」

ニヤニヤといやな笑顔を浮かべて、オタルックのぎりぎり唇に近い場所を舐めたのは、我らが生徒会長松野竜。ちなみに同学年。俺様なのに人気があるとか。所詮世の中は顔か。

「初心な反応だねぇ、道哉ちゃんかっわいー」
「かわっ!? 馬鹿にすんな茜っ!」

最後にへらりと笑って茶化すのは、二年生徒会会計の藤代茜。喰べた男は数知れず、チャラ男で有名。ゆるゆるな笑顔を浮かべてオタルックの頬を撫でる姿につい鳥肌が。


扉閉めて外出ていいですか? いいですね。マジでなにこの甘い空気。ぼっさぼさの黒髪に今時そんな眼鏡どこで売ってるんだ? と聞きたくなるような瓶底黒縁眼鏡。見事なオタルックの彼を、綺羅綺羅しい容姿の生徒会役員達が蕩けるような笑顔で甘やかすこの光景は非常に目に毒である。俺生徒会室来た。来たって事にする。実際一歩ぐらい入ったし。今日の仕事? もういいだろ、他の奴らも仕事なんてしてないんだし。

小さく溜息を吐いて、踵を返す。今なら誰も気付いてない、いける。そう思った矢先、馬鹿でかい声が背中にあたった。

「ん? なあっ! お前ダレだ!?」

いや、お前こそ誰だよ。

「え? ああ、陸でしたか。そういえば一週間経ったんですね」
「「わー! 陸先輩のこと久しぶりに見たやっ!」」

オタルックの元を離れ、双子がきゃいきゃいしながら近付いてくる。まあ、学年も違うしこの学園無駄に広いから滅多に会えないもんな。一週間って何気長いし。
近寄ってきた二人に両腕を捕まれ、本格的に部屋の中に連れ込まれた。さっさと逃げればよかった。

「一週間か、相変わらずうざそうな前髪だなぁ?」
「・・・かいちょ、う、には、・・・関係・・・ない」
「はっ、まあな。にしても、お前ホンキで一週間ごとにしか生徒会室にこねえな」
「・・・それでも、構わない約束・・・だ・・・」

会長の松野の前に引っ張り出され、鬱々とした気分になった俺は盛大に溜息を吐く。
切るのが面倒だと伸ばしっぱなしの前髪は、たしかにちょっとうざい。けどわざわざ切るのはめんどくさいから、まあ松野になんていわれようがどうでもいい。高校に上がる前までは、何かとめんどくさがりな俺の世話を焼いてくれていた弟が恋しかった。中学の時はよく学園を抜け出して会いに行ってたから。ああ、どこの高校に入ったのか聞いてないや。二年に上がってからなんだかんだで忙しかったから連絡もとってない。携帯持ってないから連絡手段は手紙だけど。
何が面白いのかにやにや笑ってる会長様。もう来たから帰っていいかな、ぼんやりと考えてたら、後ろから何かがぶつかってきた。

「なあっ! お前、名前は? おれは秋月道哉! 道哉って呼んでくれ! お前も生徒会役員なのか?」

オタルック・・・。名前とか言われても呼ぶ気なんてない。というか背中に張り付くの止めてくれないかな。他人の体温に悪寒が走る。・・・離れてほしい。
とか思ってたら、願いが叶ったかのかオタルックがべりっと背中から剥がされた。

「くっつくなら僕に、ね? 道哉。」
「陸ちゃんは生徒会書記だよ、道哉ちゃん」
「・・・二年の、桂木、陸、・・・」

チャラ男、もとい藤代茜に小突かれて簡単な自己紹介をする。それのどこに疑問をもったのか、オタルックもとい秋月は首を傾げた。

「かつらぎ・・・?」

そこでやっと気付く。部屋の隅のソファに、誰かが座っていた。さらさらの黒髪、華奢な背中。見たことがある、その背中を注視していると、秋月が俺の目線を辿ってそういえば! と大きな声を出した。

「稜! こっちこいよ! 陸、こいつ俺の同室で、稜っていうんだ!」
「・・・りょ、う・・・?」
「へ?」

くるりと目を丸くさせて驚く稜。稜が、なんでここに。驚きで見詰め合う俺たちに、周りの役員の奴らや秋月がぽかんとしているのがわかったが、今は、それよりも。

「稜、・・・!」

距離にして言えば十歩ほど。まだ驚きで固まってる稜のところに駆け寄って、ぎゅうと両手で抱きしめた。

「稜、稜、なんで…ここ、に? ここに、入学した…って聞いて、ない、」
「り、陸!? 陸って生徒会役員だったんだね・・・。」
しかも滅多に現れないことで有名な書記さま、って陸のことだったんだ。

ぎゅうと抱きしめ続ける俺に、稜はへらりと破顔した。稜の綺麗な黒目がゆるゆると細められて、俺は無意識で満面の笑みを浮かべる。

「久し、ぶり。俺、稜に会えて…嬉しい」
「僕も、陸に会えて嬉しいな。」

背中に回る細い腕にさらに顔が緩まる。
言葉数少なめで、表情もあまり変わらない俺の態度に、後ろで役員達が驚いてるのが判った。でも今はそんなことよりも、目の前にいる稜の存在の方がおっきくて。

前髪切ってあげるね、微笑んだ弟のほっぺたに、小さく口付けた。





2010/03/04/


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