71
(第三者視点)



意識を失った陸を抱き上げて、すぐ近くにひっそりと建つ温室へと歩みを進める啓。ぐったりと首を垂れる陸を優しく抱えて、振動があまりこないようにゆっくり歩く。


温室に入り道哉が見たアンティーク調の白いイスを通り越す。
草花が生い茂っているため、くねくねと曲がる道の先は イスのある場所からは見ることが出来ない。慣れた様に温室の中を歩き、おそらく温室のちょうど真ん中に当たるだろう位置にぽっかりとあいたスペース。その中心には半透明の簡易的な小屋があり、啓はその中へずかずかと足を踏み入れる。温室にいる虫除けのためだけにつくったそこはワンルームの小さなものだが、ちょっとした机やイスなど家具を置くには十分な広さを持っている。
啓は家具の1つであるパイプベッドに、そっと陸を寝かせた。

さらりと黒髪が流れ、髪で隠れていた額の傷に啓は訝しげにそれを指先で撫でる。


白い顔色。低すぎる体温に、耳を澄まさなければ聞こえないほど微かな呼吸音。力なく放り出された四肢と破かれた服が痛々しい。苦痛の色すら見えない、なんの感情も浮かばせない寝顔に、不安を覚えた。


涙を湛える青い瞳。


そっと、己の耳に手を伸ばす。指先に触れる硬く冷たい石の感触に、啓は小さく息を漏らした。





2010/05/26/


prev next

MAIN-TOP

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -