(主人公視点)
唇を噛み締める。無邪気に喋りかけてくる転校生がこわい。・・・こわいというより、不気味、というべきか。拒絶しても拒絶しても、なんで笑顔で近づいてくるのだろう。不思議で仕方なかった。
小さく息を呑んで、尊先輩の手を握り締めていた指を解く。
一歩こちらに踏み出してきた転校生をみて、こちらも一歩後退した。逃げるそぶりを見せた俺を、不思議そうに首を傾げて見つめる転校生はそれでも一歩ずつ確かに歩みを進めてくる。
っ、いやだ・・・!
近寄るな、ちかよるな、いや・・・だ!
「?・・・陸?」
「っ!!」
「えっ、うわっ!?」
腕に転校生の手が触れる。
瞬間。
頭の中が真っ白になった。
やっぱり無理だ、だめだ。・・・大丈夫だと思ってたのに。人の体温くらいある程度触れるようになったと思っていた、のに。
体が勝手に動いた。転校生の体を突き飛ばすように押す。倒れはしなかったけれど、大きく揺れた体。驚いたような声に、反応することもできず俺は駆け出した。
転校生と尊先輩の間をすり抜けて、扉まで十歩もない距離を走る。
いや、だ。やめて、近づかないで。いらない、いらないいらないいらない。他人の体温も喧騒もいらない。ただ、静寂に包まれて眠りたかった。
扉の近くに立っていた、会長と目が合ったような気がした。
呆然とした表情のまま俺に伸ばされる手を見て、その手から逃げた。俺の名前を誰かが呼んでいたような気がする。でも、でも。
ああ、。
(稜と譲がいたから、大丈夫だと思ってたのに・・・)
自分で思っていたよりも、昨日の出来事はショックだったらしい。
2010/05/14/