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(第三者視点)



松野竜は苛立っていた。


我を押し通す道哉に苛立ちが増していたし、尊に冷ややかに見下されたことも腹立たしい。そして、いくら尊が年上であるといえど生徒会長である己の許可なしに、それどころか自分を鬱陶しそうに押しのけて生徒会室に入ったこともむかついた。




だが、そんな中でも。




「みこと、せんぱい、?」




…陸が尊の名を呼んだことが、一番嫌だった。



叫び出したくなるほどの、胸に溜まる不可解な気持ち。もやもやとしたそれに顔を歪める。稜、…陸の弟が現れてから、少しずつ竜の中に溜まってきたそれ。稜に向けられる陸の甘い微笑を見つめるたびに、ちょっとずつ胸の奥に積もって。



道哉と言い合っていたことも忘れて、竜は尊に隠されて見えない陸を見つめた。陸の方を、じっと凝視する。いつか尊の背に穴があいて、陸の姿を垣間見えるようになるかもしれない、そう思わせるほどただただ視線を向けていた。








道哉のことが好きだ。今まで周りに居なかったタイプだから、ということもある。しかしそれ以上に。自分たちと関わることによってもたらされる、親衛隊からの制裁を撥ね退ける力が眩しかった。そして自分を、周りと平等に見てくれることに救われた。

昔から周りにチヤホヤされてきた自分。幼い頃は褒められることが純粋に嬉しくて、頑張って頑張って頑張って。求められる理想像を血を吐くような努力で保ち続けてきた。
…そして、いつだか頑張ることに疲れてしまった。疲れ果ててしまった。
昔ほどの努力をしなくなった己を、それでも周りはチヤホヤし続けて。そこで、気付いてしまった。



…なんだ、誰も自分の中身なんか見てやしないじゃないか、と。


己の外見だけを見て近付いてきて、勝手にチヤホヤして。そんな中で、道哉だけは違った。
チヤホヤなんてしなかった。親衛隊から何をされても、自分と仲良くなりたいといってくれた。もっと俺のことを、俺の中身を知りたいと。



一般生徒に比べたら、生徒会役員も俺のことを見てくれる。それでも、深くは関わってこなかった。ほぼ全員が似たような立場状況だったからこそ、まあ他の奴らに比べたら一緒にいても息苦しくない。その程度で。

それに役員たちもどこか、少しだけ自分を特別視していることがある。生徒会長なのだから多少は当たり前なのだとわかっているけど、そんな肩書きすら取っ払って道哉は俺のことを見てくれた。


だから、俺は道哉のことが。













―――ホントウに?

己を特別視しなかったのは、ホントウに道哉がはじめて?



ぐるぐる、言葉がまわる。それに耳を傾けたら、なにかが壊れるとわかっていた。それでも、竜は聞いてしまった。気付いてしまった。



青い瞳は、誰に対してもなんの感情も見せずに何者にも平等に、ただ沈黙していたじゃないか。








このとき。

この日この場所で、竜は。道哉への思いで隠せなかった胸の奥の心に、気付いてしまった。





2010/04/28/


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