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(主人公視点)



「みこと、せんぱい、?」


ぽかんと、口を開けて固まってしまった相手を見つめる。手を包む体温が心地よくて、ぎゅうと握り返せば尊先輩ははっとしたように口を閉じてまばたきを繰り返した。


「…陸、前髪を…切ったんだな」


恐る恐るという風に尋ねる先輩を不思議に思いつつ、こくりと頷く。
これでも背は高い方だが、俺よりも大きい身体をしている尊先輩のおかげで転校生や会長の姿を見ることはない。ただ背中にびしばし会計の視線が突き刺さる。



手を繋いだまま頷いた俺に、尊先輩は驚くほど華やかな笑みを浮かべた。息を呑む。清廉な空気が一掃されて、場が明るくなったような錯覚。さらさらの髪を小さく揺らして、尊先輩が笑った。



「綺麗だ、陸」



俺の大好きなお菓子みたいに、甘い声。

………はっきり言おう、すごく恥ずかしい。




華やいだ先輩の空気、甘い低音。今まで向けられたことのないそれに、困惑する。




「…、ありがと、う…ござい、ます」


なんだか恥ずかしくなって、俯いて礼を言う。綺麗って男に対して褒め言葉になるんだろうか。いや、可愛いと言われたわけじゃないからポジティブに受け取っておく。

第一、こんな甘い笑みを向けられて反抗なんて出来るはずもない。


照れていることがバレているのか、小さな笑い声を零す先輩。いたたまれない。なんだかいつもの先輩じゃない。普段の武士みたいな凛とした空気はどこへ? 柔らかい雰囲気にただ戸惑う。



ぐるぐると頭の中が回って、手に力を込めて。……込めたところで、いまだに尊先輩と手を繋いだままだということを思い出して、さらに混乱した。小さな笑い声と柔らかい空気が、恥ずかしくてたまらない。なんで恥ずかしいのかもわからない、会計と対峙したあたりから想定外のことが続きすぎて調子が悪い。



ただ、


「…陸、」


尊先輩がどこか吹っ切れたような、清々しい顔をしているという事だけはわかった。





2010/04/26/


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