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(会計視点)



生徒会室の入り口で口論を交わす会長と道哉ちゃん。陸ちゃんは振り返ることもせずに静かに佇む。

いや…静かに、というよりも。


「…っ、…」



震える身体。握りしめられた拳。何かを耐えるように閉じた瞳に、見えなくなった青色を惜しく思った。…キツく握る指を、一本一本解いてあげたい、と…。



「何を騒いでいる?会長ともあろう者が騒々しい」

その思いが形を成す前に、凛とした声に思考を奪われた。慌てて目を向ければ、生徒会室の入り口、二人の数歩後ろに文化委員長の木野先輩が立っていた。文化委員長の姿をみて、会長が表情を苦々しいものに変化させる。


「っ文化委員長か…っ」
「、何をしている?…それにお前、このフロアは役付きの生徒以外は原則立ち入り禁止だ」
「みこっ…、き、木野…せんぱ、い…。っおれ、」


昨日食堂で言われたことを思い出したのだろう、冷えかけた文化委員長の雰囲気に慌てて名前を言い直す道哉ちゃん。っていうか役付き以外の生徒立ち入り禁止なんて、かなり今更な校則持ち出すなんて…やっぱ文化委員長ってお堅いよねえ。おれ生徒会室の仮眠室に連れ込んだ人数覚えてないよ?あは。


きりりと整った顔立ちで、文化委員長は道哉ちゃんを無機質に見下ろす。まるで陸ちゃんのように、なんの感情も篭もっていないそれを見た道哉ちゃんが小さく怯えを見せた。人の感情に聡い彼だからこその怯え。不安げな空気を纏う姿を見て、彼を守らなくてはと感じた。


一歩踏み出す。正直、一言も発さない陸ちゃんのこと忘れかけてた。けど。



「…、陸、…か?」

震える身体。ただ静かにひとりで耐える陸ちゃんに、文化委員長が気付く。書類を持った手で道哉ちゃんをどけ、片方の手で会長を押しのけて進む彼。


おれ…が、羨望した陸ちゃんのその手に、重なる大きなてのひら。



「みこ、と…せんぱい、?」
「…どうしたんだ、陸?」



やさしくあまく。
聞いたことのない柔らかな口調、とろけるような表情を浮かべて、文化委員長が微笑む。後ろから陸ちゃんの手を取って、その身体をくるりと半回転させた。



「っ、…り、く…?」


甘く細めていた目を見開く。それはそうだろう、だって前髪がなくなってよく見えるようになった陸ちゃんは、とてもとても美しかったから。昔から綺麗な人に囲まれて育ってきたおれにも、陸ちゃんの容姿は眩しく見えた。…だから、ちょっとだけ、勘違いをしそうになった。

……ほんの少しだけ、陸ちゃんに恋をしかけた。



でも、おれが本当にスキなのは道哉ちゃんだから。







本当に?


胸の奥から聞こえてきた声に、蓋をする。




おれがすきなのは、どうしようもなく真っ直ぐで、眩しい眩しい道哉ちゃん、だよ。





2010/04/23/


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