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(主人公視点)



ゆっくり息を吐き出す。
笑顔を浮かべているのに、どこか泣きそうな雰囲気を纏う会計が理解できなかった。今まで必要以上に相手を意識せずに過ごしてきた陸に対して、彼もまた無関心に飄々と笑っていたのに。

笑顔で泣く会計に、眉を顰める。懇願するような視線にただ首を振った。





ねぇ、お願い陸ちゃん


目を閉じても浮かぶ、紅茶色の瞳を滲ませる会計の姿。

…、小さく唇を開く。己の名前が空気を震わせることに、確かに会計は歓喜の色を宿した。…が。

バンッ

「陸っ、いるか!?」

音と共に吐き出そうとした空気を飲み込む。会計の名前を紡ぎ損ねたけれど、別にどうでも良いと思った。…少しだけ、どんな反応を返すのかは気になったけれど。


「道哉ちゃん、?」

会計は目を見開いて驚きの表情を浮かべる。生徒会室に乱入してきたのはどうやら転校生らしかった。後ろから聞こえてきた己の名前に、振り向きたくないと心が叫ぶ。昨日の今日で、彼の前に立つ勇気なんてなかった。



「おい待て道哉っ!」
「なんだよ竜っ!?」

どうやら会長もいるらしい。後ろを振り返る気なんて起きず、ただ震える手を握りしめる。稜や譲が塗り替えてくれた他人の温度がよみがえりそうになって、無言で立ち尽くした。


「、くそ、なんでお前はそんなに陸を構うっ?陸に近づきたがるんだっ」
「なんで竜にそんなこと聞かれなくちゃいけないんだよっ、おれは陸に用があるんだ!」
「だからっ、用事ってなんだ!?」
「竜には関係ないだろっ!?」
「っ関係ないだと…!?」
「何で怒るんだよっ、っ竜なんて関係ない!だからどっか行けよ!」

生徒会室に響く怒鳴り声。口論を交わす彼らに背中が震える。暴力や怒鳴り声は得意じゃない。静寂と平穏をなにより望む自分に、そんなもの興味もなければ必要もないものだから。




目を強く閉じて、細く息を吐く。手で耳を塞いで、この場から己以外の人間が立ち去ることを祈った。





2010/04/21/


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