(第三者視点)
陸と茜が生徒会室で向かい会ってたそのころ一方、一年のある教室では。
「稜っ、昨日のあれどういうことっ!?桂木さまと兄弟だったの!?」
喜びと怒りをない交ぜにしたような、複雑な表情をした春風灯が稜に詰め寄る。その後ろでは灯と同室の橘海斗が、苦笑を浮かべて立っていた。どうやら海斗は灯を止める気はないらしい。
慌ただしく譲の部屋を後にし、ちょうど休み時間だったためすんなりと教室に入ることができた稜。道哉はいないらしい、自分の椅子に腰掛けたところで、灯が教室に飛び込んできたのだ。昨日の食堂のことから、稜の姿にざわついた廊下に気づいたのだろう。
灯と海斗の顔を見比べて稜はゆるりと笑う。
「言ってなかったっけ?僕と陸は兄弟、だよ」
義理のだけど、とは言わない。稜はにっこり微笑む。
周りで聞き耳を立てていた生徒たちが次々に絶叫をあげる。信じられないだの羨ましいだの。喧噪に包まれた教室及び廊下に、稜はそれでも微笑み続けた。陸って人気だな、なんて考える余裕まである大物っぷり。
「灯、授業始まるから教室戻った方がいいんじゃない?」
「あっ、ホントだ!…じゃなくて!」
「ほら、あと二分しかないよ」
「…っもう!後でたっぷり話してもらうからねっ!」
「はいはい、また後でね」
ヒラヒラと手をふって灯を見送ると、稜は自分の肩に掛けられた手の持ち主を見る。
「どうかした?海斗」
「…、か、桂木さま、と」
「うん、兄弟だよ?」
「…兄弟…」
おや、おやおやおや?稜は小首を傾げる。親衛隊とまではいかないが、整った爽やかな顔立ちに、バスケ部期待のルーキーということもあってそれなりにファンの多い海斗。おそらく二年になるまでには親衛隊も結成されるだろうと噂の人物は、程良く焼けた肌を赤く染めている。これはもしかしてもしかするのだろうか、稜は無表情に首を傾げる。
「…、お、俺…っ」
「…ねえ、海斗」
「えっ?あ、うん、なんだ?」
「いつか陸を部屋につれてきても、いい?」
ぱかっ、と口を開けて硬直した海斗。ああやっぱり、稜は微笑む。
「も、もちろんっ、…!」
「…、ありがとう」
陸に人気があるのは知ってる。でも…。
ちらりと海斗を盗み見る。頬を染めて嬉しそうな表情をしている彼に、もやもやした。
「…、」
灯や海斗のことはもちろん好きだ。友人として、彼らはとても素晴らしい人柄だと思う。陸に人気があるのもわかる、むしろそれを誇らしいとも思う。大切な兄だから。…なのに。
なんだか陸を遠く感じて、誰にも気付かれないくらい小さく、稜は溜息を吐いた。
思い出すのは宝石のように輝く青い瞳。美しさを増したかんばせ。
また親衛隊増えちゃうかな。…増えちゃうよね。
……、なんだかなあ。
「(陸は僕のお兄ちゃん、…なのに)」
2010/04/18/