(主人公視点)
自分のじゃない暖かい体温に、ぼんやりと目が覚める。小さく首を動かして確認すれば、寝るときよりも密着した状態の譲と稜がいた。胸と背中から伝わるポカポカした暖かさに小さく笑って、前髪を切ったことによってスッキリした視界で部屋を見回す。
「…六時すぎだ。…まだ寝てろ」
「っ、起きてた、の…か?」
「…、ねみィ」
寝起きの所為で掠れ気味の、低い声が耳元で囁く。譲が起きてたことに驚いて小さく肩を揺らす。その振動で稜が小さく身じろいだのに気付いて、慌ててじっとした。そして小さい声で聞き返す。しかし俺の疑問に譲は明確な返事をしないで、俺の体を抱えなおした。
背後で欠伸をした気配がして、つられて欠伸を漏らす。
「…、ふぁ」
ふかふかのベッド。身体を包む、あったかい温度。
うつら、ゆっくり眠気に誘われて。
…誘われて、起きたら。
「っ、十時っ!?」
腕の中で稜が飛び起きる感触。焦ったような声色、聞こえた時間に俺も慌てて飛び起き、ようとしてベッドに引き戻された。原因は腰に回された譲の腕。
「まだいいじゃねェか…」
「…、ゆずる、俺起きる…」
眠いのだろう、やはり掠れた声で譲は言う。譲の腕を引っ張ってどうにか腰から外そうと奮闘してる間にも、稜は寝室を出て行く。ああ、俺も朝の支度したい。もう朝っていうような時間じゃないけど。
「ゆ、ずるっ!」
昨日サボった分、今日仕事しないと…!というか保健室にたぶん置き忘れてあるだろう、顧問へ届けるはずだった書類も取りに行かなければ。
ぺしぺしなんて可愛らしいものじゃなく、バシバシと譲の腕を叩く。しかし無言で腕に力を込める譲。
「陸、譲くん、僕先に行くねっ!」
「え、っ、りょ「おー、行ってこい。気ィつけろよ」…」
「わかってる、じゃあ行ってきます!」
パタパタと軽やかな足音をたてて、稜が出て行く。譲は気怠そうに首だけを稜に向けて俺の言葉を遮った。
………。
「…譲…?」
「あ?…、っと陸、クン?なんでそんなに怒って、」
「…っ、はな、せ!」
バフッ
「っ!」
手元にあった枕で譲の顔を叩く。怯んで腕の力が弱まった隙に、するりと体を譲から離す。
「俺、も…、稜にいってらっしゃい…って!」
言いたかったのに!譲の馬鹿!
2010/04/14/