(第三者視点)
稜がキッチンから注いできた水を受け取り、譲がゆっくりとそれを陸の口に含ませる。喘ぐように水を飲み下す陸の苦しそうな顔を見て、稜が唇を噛み締めた。
「陸、…」
「…、」
「…陸」
開きかけた唇を強ばらせる陸。目を泳がせて稜と相対するも、ふるりと小さく肩が震えた。
「…っ」
「…う、え…りょ、う?」
唐突に、がばっと稜に抱きつかれて狼狽える陸。戸惑ったような陸の声を聞きながら、稜はしがみつくように陸の胸に抱きつく。
「っごめん、ごめんね陸。陸のこと嫌いになったわけじゃないんだ、」
後ろから譲、前から稜に抱きつかれた陸は、おろおろと顔を前後に行き来させる。その間にも陸を抱きしめる力を強める二人。
普段の陸なら、二人に目を逸らされたからといってここまで弱ることはない。二人を信じてるから。でも今日は、仕事や人との接触などによる過度のストレス、肉体的な怪我などもあり弱りきっていた。もしかしたら二人は俺のこと嫌いなのかも、…なんてネガティブな方向に思考してしまい、ぐるぐるといやな言葉が回る頭の中で、他人の体温を思い出して、気持ち悪くなって。
怯えるように体をふるわせた陸を、二人はぎゅう、と力の限り抱きしめる。
「う、…あ…、二人、とも」
数分経ってもそのままな二人に、おずおずと口を開く陸。
「なに、陸?」
「どうした、陸」
「え…あ、…ふ、服くらい、着たい、…な」
少しだけ恥ずかしそうにそう言った陸にはっとする。そういえば陸はタオル一枚の姿のまま。風呂も途中であがったうえに、ろくに水滴を拭いてもいない。
「か、風邪引いちゃうよね、ごめん陸!」
「わりィ陸。…あー、とりあえず風呂入り直すか」
ぱっと陸の体から離れた二人。自分から離れるよう言ったものの、なくなった体温にどこか寂しげな表情を浮かべた陸をみて、不謹慎にもきゅんと胸が高鳴る。
「…、一緒、入りたい…」
まだ不安が残ってるのだろう。目を伏せて小さい声で呟く。
「部屋から着替えとってくるね、待ってて陸」
目を伏せる陸ににっこり笑いかけた稜の行動は早かった。
譲によって蹴破られた扉をくぐり、凄まじい速さで駆けていく。稜が向かった玄関の扉の方からものすごい音が聞こえてきて、譲はおもわず遠い目をした。部屋中の扉という扉を修理して貰わなければならなくなる日が、遠くないうちにくるかもしれない。
まぁ今のところ修理しなければいけない扉は、譲によって壊されたものだからなんともいえないが。
稜の後ろ姿をぽかんと見送った陸の隣で、さすがブラコン、と譲が小さく呟いた。
2010/04/10/