51
(陸視点)



どうせだからそのままお風呂に入っちゃいなよ、という稜の言葉に頷いて浴槽に湯を溜め始めたのが10分前。あっという間にいっぱいになったお風呂に、身を沈めたのが5分前。
どこか挙動不審な稜に首を傾げつつ、ぼんやりと縁に顎をのせる。さっきまで俺が被っていたビニール袋を片付けたり、切った髪の毛を小さな袋に纏めて、細かい回収しきれない髪を水で洗い流す稜を眺める。後片付けをやると申し出たけど、それよりも陸はお風呂!と言われたので、甘えてみた。…、うん、ありがとう稜。お風呂が気持ちよくてうとうとしてきた。あとでちゃんとお礼言おう。

どうやら一段落着いたらしく、はさみを片手に稜が振り返る。じぃ、っと行動を眺めていた俺に驚いたのか、陸は少し肩を跳ねさせた。

「じゃ、じゃあ僕はリビングに戻っとくね。」
「稜、…」
「、ちゃんと温まってから、でるんだよ?」
「…、りょ、う…」

りょう、稜。
目を泳がせる稜を不審に思って、お風呂の中から身を乗り出す。しかし伸ばした俺の手を避けた稜は、慌てたように浴室を飛び出していった。
名前を呼んで、返事を返してくれない稜なんて初めてで。正直ショックを受けた。

…、俺、なんか…した、かな…。稜のいやなこと、したの、かな。
大きな音を立てて閉まった扉を呆然と眺める。でも直ぐにお風呂から出て、譲が用意しておいてくれたタオルを腰に巻く。稜を追いかけなきゃ行けない気が、したから。ろくに体も拭かないでリビングに向かう。扉を開ければすぐに、頬を両手で覆った稜が見えて一直線に駆け寄った。

「りょ、う…」

俺を見て固まる稜。指先を伸ばせば、怯えたようにびくりと稜が震えた。

…、怯えた、ように…?…怯え、…。…りょ、う…。俺、…。

背中に悪寒が走る。俺の世界は狭くて小さいから、その中でもすごく大きな存在の一人である稜から、…嫌われる、なんて…。

「う、いや、…陸、風邪引いちゃうからお風呂にもどった、ら…?」

目をそらした稜は、気まずそうに言葉を紡ぐ。…なんだろう、視界がぐらぐらしてきた。自嘲を抑える。…他人のことを拒絶する俺が、拒絶してほしくないなんて言えなかった。

「…、わか、った…」

なぜだか吐き気が込み上げて、急いで踵を返す。後ろを振り返って、いつの間にか俯いていた視界に床が映る。…、びしょぬれ…。譲の姿も目にはいって、途端に申し訳ない気持ちになった。人の部屋でなにやってんだ俺。

俯いて、それでも目だけを譲に向けて謝った、のに。

「、…ゆずる、床、濡らした…ごめ、ん」
「…、いや」

ふい、と目線をそらした譲をみて、本格的に吐き気がして。唇を噛み締める。でも耐えきれなくなって、両手で口を押さえて浴室へ走って戻った。


俺、二人になんか、したのか、な…。





2010/04/08/


prev next

MAIN-TOP

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -