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(風紀委員長視点)



ガターンッ、盛大な音をたてて稜が浴室から飛び出してきた。はさみを片手に頬を染めるその姿ははっきり言っておかしい。というか急にどうした。
不審に思って声をかける、が。

「お ガシャンッ い、…」

「やばいやばいやばい!どうしよう…!」
「……。」

手に持っていたはさみを近くの台の上に、叩きつけるようにして置く稜。見事にその音に邪魔された俺を無視して、自らの頬を両手で覆いグルグルと室内を落ち着きなく徘徊しだす。見たことのないほど混乱しきったその姿。些か呆気にとられてそれを見ていたら、再び浴室から盛大な音をたてて、次は陸が飛び出してきた。髪を切ったあとに風呂に入っていたのだろうか、かろうじて腰に巻かれただけのタオルの裾を翻して一直線に稜に近寄る陸。早過ぎて後ろ姿しか見えなかった。ボタボタと滴を垂らす陸は、陸の姿をみて固まってしまった稜の一歩前で立ち止まる。

…マジでなんなんだ。誰か説明しろ。


「りょ、う…」

沈んだ声色。伸ばした陸の手にビクリと肩を震わせた稜をみて、その指先は稜に触れることなく落とされる。挙動不審になる稜。身長は高いのに、不釣り合いに細すぎる陸の背中が強ばったのがわかった。
白いその背中が、なにかに怯えるように震えて。陸は動きを止める。というか待て、その背中の打撲の痕はなんだ。

「う、いや、…陸、風邪引いちゃうからお風呂に戻った、ら…?」
「…、わか、った…」

頬を染めて目を泳がせる。空笑いすら浮かべる稜は、どうやら陸の様子に気付いていないらしい。先ほど稜の名前を呼んだときよりも、更に沈んだ声で陸が答える。様子のおかしい二人に首を傾げた。前髪を切っただけで、この無駄に仲のいい二人が喧嘩するとは思えなかったからだ。まあ稜が頬を染めてるあたり、喧嘩ではないのだろうけど。なんにせよ、二人が気まずくなるようなことが起こるとは考えにくかった。

肩を落とした陸は、静かに踵を返す。其処で初めて見ることの叶った陸の顔に、息を呑んだ。…なるほど、稜が挙動不審になるわけだ…。


腰に巻かれたタオルから、すんなりと伸びる白い両足。無駄な肉がついてない…というよりも筋肉すらあまりついていない細い腰に、薄い肩。水に濡れた艶やかな黒髪が、長い前髪のなくなった顔を縁取る。よく見えるその顔は、記憶にあるそれよりも格段に美しくなっていた。

肩を落とす陸の、青い瞳は俯いている。長い睫が力無く伏せられ、見るからに気落ちしているその様子に苦笑が漏れた。稜がなんで挙動不審になったのかわかってないらしい、うなだれるその姿は飼い主に怒られた大型犬のようで。きっと今の陸には、どんなやつだって胸を高鳴らせるだろう。それこそ兄弟としてやってきた稜にも、それは当てはまるはずだ。傾国の、と形容してもおかしくない容姿なのだから。

…に、しても。


「、…ゆずる、床、濡らした…ごめ、ん」

明日からの委員会活動、忙しくなりそうだな。


(とりあえずしばらく陸から目を離さねェよう気をつけるか)





2010/04/07/


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