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(稜視点)



額の傷を消毒して、ガーゼをあてる。目を閉じてリラックスしきった様子の陸に、ちょっと幸せな気分になって。譲くんとこっそり笑いあう。可愛いなあ、陸。

「りーく、寝ちゃだめ」
「・・・、でも、寝るって・・・?」
「その前に前髪切ろう、ね」
「・・・、わか、った」

小さく頷いて、のろのろとベッドの上から立ち上がる。譲くんを仰ぎ見れば、浴室行け、と言われた。ああ、たしかにリビングで髪切るより、浴室だと楽だよね。細かい髪の毛は水に流しちゃえるし、なんならそのまま入浴してもいいし。

とかなんとか考えながらさくさく移動して、浴室で陸と向かい合うようにして座る。ビニール袋の底を、頭が通る程度の大きさに切って陸に被ってもらった。服に髪の毛ついたらいやだからね。こうした方が後片付けも便利だし。



艶やかな黒髪を、少し勿体無い気分になりながら切り落としていく。シャキリ、気持ちのいい音を立てて切れる前髪、徐々に露わになってくる陸の顔に、正直言葉を失った。ともすれば震えそうになる手を抑えて、ゆっくり前髪を切る。

「…、」
「…稜?」
「…、…陸…」
「ん?」

こくり、小さく息を呑む。

「き、…キレイに、なったね…」

呆然とする。陸の顔に見惚れている自分がいた。
短くなった前髪の下で輝く青い瞳。しっかり見えるそれは、まるで宝石のようで。人形のように美しいかんばせ。無機質なそれの、髪の毛で隠されていた泣き黒子が強烈な色気を放っていた。

昔から他を飛び抜けてキレイだと思ってたけど、たった少し見なかっただけでこんなに磨きがかかってるなんて…。顔に浮かぶ疲労の色が、一段と陸の色気をアップさせていて。

春休みの段階で既にそこそこ前髪伸びてたから、顔をちゃんと確認していなかった。切るほどじゃないと思って切らなかったあの時の判断が、正しいのか正しくないのかは謎だ。…いや、確実にこの顔じゃ、いくら陸の身長が高くても襲われてただろうから、正しかったのかもしれない。

きちんと顔を見るのは約一年ぶりくらいかな。…たった一年で、人ってこんなにキレイになれるんだね…。

自分の顔に無頓着な陸は、小さく首を傾げる。きゅん、と高鳴った胸は見ないふり。陸と僕は兄弟、陸と僕は兄弟。…義理だけど…。じゃなくて!ああ、陸がキレイになりすぎてて混乱してきた…!


蛍光灯の光を反射して煌めく青い瞳が、無垢にこちらを見上げていてクラリとする。


ああ、前髪切ったの失敗だったかも…!





2010/04/06/


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