48
(主人公視点)



べちん、とおでこを叩かれた。譲に。


あの後、譲に半ば抱えられる形で食堂から出た俺は、そのまま譲の部屋へ運ばれた。一緒に着いて来てくれた稜は、まるで転校生の体温を塗り替えるかのように手を握り締めてくれている。
二人にありがとうと伝えたかったけど、いつも以上に言葉が上手く紡げず、みっともなく身体が震える。両親や譲、稜以外の体温なんていらなかった。四人以外にも、頭を撫でられたり軽いスキンシップをするのが嬉しい人たちは居るけど、その中に転校生は含まれて居ない。自分から触るならまだいい、無意識でも覚悟を決めて触れているから。でも相手から唐突に触られたり、長時間触れ合ってるのは駄目なのだ。昔みたいに吐く、とまではいかないが、それでも酷く気分が悪かった。手を握り締めただけなのにあんなに怯えて、きっと変に思われただろう。・・・どうでもいいけど。

震える身体をベッドの上に下ろされて、譲と稜に挟まれるようにして抱きしめられる。背中から身体を包み込む譲の体温にほっとして、俺の頭を胸元で抱きかかえるようにする稜の心音に安堵した。

なんとか震えも止まり、たどたどしく二人に謝罪と感謝を伝えれば、譲が酷くいい笑顔を浮かべて経緯を詳しく聞いてきた。食堂であったことは稜が話す。悪いことをした訳じゃないのに、それをいたたまれない気分で聞く俺。

「食堂であったことはわかった。・・・陸」
「・・・なに?」
「なんで食堂にいた? しかも文化委員長と体育委員長と一緒に。美化委員長もいたな」
「・・・、誘われて・・・」
「いくら先輩だからって、誘われたくらいで食堂に行かねェだろ。お前は」

軽く俯く。ここで譲に、転校生が連れた雨宮といざこざがあったなんて知れたら、食堂に行ってまで両委員長を誤魔化そうとした意味がなくなる。だって譲は風紀委員長だ、生徒達を律し、違反した者に罰を与えるのが仕事。

「それに、額の傷の原因はわかったが、その包帯については聞いてねェ」
「あ、僕もそれ気になってたんだ。・・・教えて?陸」
「う、・・・」
鋭い視線でこちらを見る譲から目をそらせば、飛び込んでくるのは小首を傾げる稜の姿。・・・やばいにげられない。ぐ、と押し黙る俺に、稜は苦笑を浮かべる。譲は溜息を軽く吐いて、ベチンと頭を叩いたわけである。つまりここでやっと冒頭に至る。


「取り合えず、今は聞かねェ。疲れてンだろ?」
「・・・、あ」
「どうしたの?」
「・・・仕事、」

あと朝持ってた書類もどこやったんだ俺。保健室に忘れたまま、・・・だったりするんだろうか。今日はまだ全然仕事に手をつけてないから、やらなければ。
そう思って呟いたのに、今度は稜から頭を軽く叩かれた。

「今日の仕事は休み!陸、顔色酷いんだからねっ」
「大人しく稜のいうこと聞くんだな。・・・頭の傷治療してやるから、済んだら寝ろ」
「、う、・・・でも」

ベッドの上から床に下りた譲に、ぎろりと睨みつけられる。もごもごと言葉につまった俺をみて、稜が笑った。

「休むんなら、久しぶりに一緒に寝てあげるのに。」
「やすむ」
「即答かよ」

う、だって。二年に上がる時の春休み以来なんだよ、稜と寝るの。

「・・・ゆ、譲も・・・」
「そうだね、譲くんと陸と僕の三人で寝よう」
「あ?・・・しょうがねェな。」

呆れたように苦笑する譲をみて、稜と笑う。


いまこの時間が、永遠に続けばいいのに。





2010/03/28/


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