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(第三者視点)



ぱたぱたと小走りに、階段の途中にいる高貴の元へ道哉が駆ける。その姿に笑顔を引きつらせ、足を止める高貴。

「高貴、あのさ・・・っ」

がしっ

「え、ちょ、なに、高貴・・・!?いだだだ!!」

もっさりした黒髪に覆われた頭を、高貴がその大きなてのひらで鷲掴む。痛みを訴える道哉をスルーして高貴は呆れたような表情を浮かべた。

「こ、高貴・・・!?」
「おまえな、さっき如月に注意されたばっかりだろうが」
「・・・?」

頭を掴む手を外そうと奮闘し、しかし高貴の言葉に首を捻る。疑問符を浮かべた道哉に大きな溜息を吐く。

「俺はお前の先輩。敬語ぐらい使え。」

丸い茶目を細め、ひたりと道哉を見据えた高貴は無言で手に力を込める。
大抵のことなら笑って流す高貴だが、実は上下関係については誰よりも厳しいことで有名だったりする。学園の中でも特に厳しいと有名な剣道部に所属しているからか、先輩を敬い後輩を指導する姿勢は人一倍。さっぱりとしたその性格から、一年の頃から年上に可愛がられてきた高貴だが、どれだけ可愛がられようとも上下関係については徹底していた。ぶれることのないその真っ直ぐな姿勢を周りが認め慕っているからこそ、三年になった今では剣道部主将を任せられ、体育委員長の任に就いている。
なんらかの運動部に属している者達は高貴のその厳しさを知っているため、道哉の言葉遣いにヒヤリとさせられていた。しかし高貴は峻が注意したのをみて、口出しは一切行わなかったのだ。ある程度の分別はつけられる高校生なのだ、一度の注意で十分だと高貴は判断した。だというのに。

「な、ならっ!友達になればっ・・・!」

溜息。体育委員長にここまで呆れさせ、溜息を吐かれる人物も珍しいだろう。

「ともだち、なあ?」
「そう、友達っ!ならさ、ほら、呼び捨てでも!」
「ふうん。・・・友達・・・、必要ないな」
「え、」
「おまえみたいなトモダチはいらん。」
「な、なんで・・・」

うろたえる道哉。不意に、にかっと爽やかに高貴が笑った。

「礼儀のなってないやつがきらいだからな」

邪気のない明るい表情で、高貴は言う。一瞬何を言われたのか理解しきれなかった道哉は、ぽかんと呆気にとられ、しかしじわじわと理解してきたのか顔を歪ませる。峻に続いて高貴に拒絶され、道哉は混乱していた。ここまで明確に、棘を孕んだ言葉で拒絶されたことなんてない。みんな己が手を差し伸べれば笑い返してくれる。・・・なのに。

「っ、!!」

言葉と不釣合いな高貴の笑顔が怖くて、周りの生徒達が道哉に投げかける罵声が急に近付いた感覚に陥る。とっさに踵を返して、道哉はそのまま全速力で食堂の出入り口へと走っていった。

「道哉!」
「、道哉ちゃんっ!」

茜と仁の声も耳に入らない様子で。

逃げる後姿に、罵声を飛ばしていた生徒達が嘲笑を零した。





2010/03/26/


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