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(第三者視点)



異様な空気に包まれた食堂で、いまだ呆気にとられる茜と道哉に、峻は大きく溜息を吐いた。

「・・・なんて見苦しい。」
「え?」

溜息をともに吐き出された言葉に、ぴくりと道哉が反応を返す。峻はそれを苦々しい顔つきで一瞥して、不意に口角をあげた。

「お前、勘違いしてない?」
「な、なにがだよ・・・っ?」
「陸は仕事をしているよ。自分に任されたものは全部ね」
「へ・・・?」

間抜けな返事を返す道哉に、峻はますます唇を吊り上げて皮肉気に微笑む。睨まれているわけではない、微笑みかけられているのに感じる威圧感。自然と道哉の片足が後ろに下がる。

「大体、生徒会入りを辞退する陸を"週一"でもと引き止めたんだ。週一でも仕事を完璧にできるとわかってるからこその交換条件・・・この意味がわかる?」
「・・・・・・」
「ばかなの? おまえが言ったんだろう、"陸なら出来る、っておれは信じてる"。わたしたち学園の生徒教員理事長は全員、陸なら"週一でも"出来ると信じてる。というかわかってる。・・・でも、おまえは違うんだろう?」

紅い唇が壮絶に微笑む。不穏な輝きを浮かべる飴色の瞳は、それでも美しく峻を彩った。

「おまえは、陸が毎日でも仕事に励まなきゃ、課せられた仕事をこなしきれないと思ってるんだろう? ・・・ふふ、陸をわかってる、ねえ。」
「・・・っ」
「陸とろくに喋ったこともないお前が、わかってるなんて言葉を使うものじゃないよ」
「っ!!」

言葉に孕ませた棘と同じくらい鋭く睨みつける。一変した表情に誰もが息を呑んだ。常に優雅に微笑んでいる美化委員長の怒りが、空気を震わせる。

「・・・木野、いつまで呆けてるの。さっさと行くよ」
「あ、ああ・・・どこに、だ?」
「ばかじゃない?陸の部屋に決まってるでしょ」
「・・・陸・・・。」

ぼんやり、陸の名を呼ぶ尊に峻が眉をひそめた。が、すぐに尊は首をふって峻を見つめる。

「今日はやめておこう。先ほどまでの状況を見る限り、遠慮しておいた方がいいと思うが」
「・・・、・・・そう、そうだね。わかった。」
「じゃあ俺は飯食って帰るな。如月・・・はもう食べたんだよな。木野はどうする?」

けろりとした高貴の口調に、幾分か場の空気が和らいだ。峻はすこし微笑むと、さっと踵をかえす。

「それじゃあわたしはこれで。峰、木野。後は任せたから」

堂々と迷いのない足取りで食堂を後にする峻は、言葉を無くし立ち竦む道哉を一度も見ることはなかった。

「オレは・・・遠慮しておこう。少し考えたいことがある。」
「そうか、ならまたな。」
「ああ、・・・それじゃあ」

続いて尊も食堂を去り、残された四人に注目が集まる。寄せられる視線に、高貴は走って部屋からとってきた薬箱を片手にへらりと笑い、道哉と茜、仁をみやる。
食堂と高貴の部屋は結構近いのだ。戻ってきて早々に半ば押し付けられる形になった問題に、それでも高貴は薬箱いらなかったか、と暢気に微笑む。


「道哉ちゃん、だいじょうぶ? 美化委員長の言葉なんて気にしないで」
「・・・、茜、なあ・・・陸ちゃんと仕事してるって・・・」
「ま、まあ。確かに週一でもおれより完璧に仕事して・・・っと、み、道哉ちゃん?」
「してるんだ、・・・おれ、・・・おれ陸に酷いこと・・・言ったよな」

項垂れる道哉を、後ろから仁が抱きしめる。

「あんな野郎のことなんか気にかけるな。」
「仁、・・・」「道哉は転校したてなんだ、・・・知らないことがあんのも当然だろ」
「そう・・・かな?」
「そうそう、そうだよ道哉ちゃん!ね、陸ちゃんのことなんて気にしないで、ほら、笑ってよ」
「・・・茜、」
「暗い顔は似合わないよお、ね?」
「藤代と一緒なのは癪に障るが・・・同感だ」
「仁、・・・茜・・・。うん、おれ、・・・だいじょうぶ・・・。陸には謝ればわかって、くれるよな」

暗い顔もなにも、顔自体が髪の毛のせいで見えないんだけれど。なんて野暮な指摘は誰もしない。なんだかほのぼのというか、この光景だけ見てると被害者に見えてくる道哉の言動に、それでも高貴はへらりと笑い続ける。何を考えてるのか?多分なにも考えてない。恐らく、いい加減どこか行かないかな腹減った。ぐらいしか考えてない。

んんん、と少しだけ唸った高貴は、三人を放置することを決めたようだった。証拠に足が階段を昇っている。ええー、と微妙な顔をする生徒達なんて丸無視である。如月さまに後は任せたって言われてなかった?いやいや、そんなこと気にしない。だから、
「・・・あっ、待ってそこの人!えっと・・・、こ、高貴!」

今日ここに来て初めて顔を引きつらせた高貴を、誰もが見ない振りをしたかった。

まあ食堂に居る限り、成り行きを見守らないわけにはいかないのであるが。





2010/03/25/


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