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(文化委員長視点)



見当違いな言葉を連ねる転校生に眉を顰める。両手で陸の手を握り締める姿に、その手を今すぐ払いたい衝動に駆られたが、それよりも先にびくりと大きく陸の背中が跳ねた。

転校生の秋月に握られた手を、必死に振り払おうとする後姿に何故だか冷や汗が出る。

「・・・や、めっ、・・・はなし、」
「どうしたんだっ?お、落ち着けって、なあ、陸!」

弱々しく首を横に振り、混乱したように離せと呟き続ける陸に、秋月も戸惑ったように陸の顔を覗き込む。落ち着かせるように更に握りこまれた手は、どうみても逆効果にしかなっていない。

「陸ちゃん?」

秋月のすぐ後ろに居た藤代も、困惑気味にへらりと笑みを浮かべて問う。それにすら首を振り、陸の身体は小刻みに震える。握られていない方の手で顔を覆い、泣き出しそうな小さな声で訴え続ける陸。
その後姿へ駆け出しかけ、しかし食堂の空気が大きく揺れたのと共に足が止まった。


「・・・陸、落ち着け」
「・・・、っゆず、・・・」
「だいじょうぶだよ、陸」
「りょ、う・・・っ」

何時の間にか食堂へ来ていた麻埼。先ほど如月が促したために、他の生徒達は各々席についている。その中を、堂々とした足取りで麻埼は歩いてくる。

そして、・・・そして。
小刻みに震える続ける陸の身体を、麻埼はやんわりと抱きしめた。
陸の弟である稜くんは、見た目にそぐわぬ力強さで秋月の手を陸から離す。


風紀委員長である彼が、混乱を治めるために食堂へ来たのはわかる。恐らく風紀委員が連絡でもしたのだろう。だが、なぜ。

「・・・ゆず、る・・・、りょう、」

なぜ麻埼が、彼を、・・・陸を抱きしめているのだろう。秋月に代わって手を握る稜くんはわかる、陸の弟だから。でも、風紀と生徒会の仲の悪さは有名だというのに。なぜ。

足は動かない。

稜くんの手を握り返して、もう一方の手で麻埼の服を握り締めて。いまだ背中が震えていて、それでも安心したように息をついた陸をみて。


食堂が静寂に包まれる。目の前の光景に誰もが声を発せずにいた。秋月さえも、息を呑んで呆然と立ち尽くす。離された手は所在無さげに宙に浮かんでいる。


三人が去って、ざわめきを取り戻した食堂の中で。オレは一歩も動けないまま立ち尽くすだけだった。

麻埼に抱きしめられる陸の姿が目に焼きついて。


拳を握り締める。オレではきっと、抱きしめても安堵させることなどできなかっただろう。そう思う、考える、言い聞かせる。・・・なのに、この。

この胸を占める、空虚な感情は一体なんだと言うのだろう。





2010/03/23/


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