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(第三者視点)



右手を包む体温に眉を顰める。冷や汗すら伝ったように感じた。

スキンシップは、本来陸の好まざるものである。
他人との接触を異常なまでに忌避し、会話は勿論のこと肌と肌の接触なんてもってのほか。今でこそ無表情を保ち何事もなく立って居られるが、少し前までは赤の他人と触れただけで喋っただけで、部屋に篭って一人吐き体調を崩していた。

幼い頃からその異様なまでに整った顔と家柄から、周囲に敬遠されてきたことが原因である。
友人と呼べるものは幼なじみの譲くらいなもので、元来の無口さと相俟って、喋ることでコミュニケーションを図ることを知らないで陸は育ったのだ。
そんなに喋らずとも意思疎通を図れていた陸を取り巻く僅かな人たちも、これはさすがに不味いと、なんとか陸を説得し励ましてきた。喋ろうと頑張って、努力して、それでも熱を出して倒れた陸に、断念せざるを得なかったが。まあ触れることは出来ないが、少しなら他人とも喋れるようになったから格段の進歩とも言える。高校に上がり、二年になった今では自分から他人に話しかけるのも平気になってきた。触るのも、不意打ちはダメだがある程度は平気。・・・・・・あくまでも、"ある程度"の話である。

陸は、稜や譲などの限られた極僅かな人物へは、"他人に触れない分まで"、という程の過剰なスキンシップを好む。
自分から触るのは平気、でも人から触られるのはダメ。でも触ってくる人物が稜や譲、両親なら大丈夫。そのたった四人の人たちでさえ、不意打ちで触られると参ってしまう。
多少心を許した人物なら、陸の目に捉えられる動きで触るのなら大丈夫だ。正面から頭を撫でる、とか。後ろからはダメ。

異常なまでの線引きは、家柄ゆえに誘拐を多く体験してきた陸ならではの自己防衛だった。

背後から触られると、後ろから捕まえられて無理やり車に押し込められた記憶がよみがえり。
見えないところから頭を撫でられれば、目隠しをされ脅された記憶がよみがえる。

どの誘拐も大事に至ったことはない。すぐさま救い出されるか、攫われるのすら未遂に終わる場合が多かった、けれど。ほんのすこしのトラウマを、陸の心に残したのは確かだった。

身体の成長とともに心も成長し、他人と接触するのにそれほど抵抗を感じなくなってきてるといっても、それは"とても仲の良い人物"としか触れ合えなかったのから"仲の良い人物"まで平気になった、という程度のものである。

つらつらと述べて、結局何が言いたいのかというと。


「・・・さわ、る・・・なっ」

つまり、「なんとか我慢できる他人との接触」の許容範囲を、たった今超えてしまったというわけで。


温かい道哉の手が包み込んでいるにも関わらず、陸の右手は時間を追うごとに酷く冷たくなっていっていた。





2010/03/22/


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