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(とある会計親衛隊視点)



「・・・限度が、ある・・・。一週間は長い」

そう零した桂木さまに、にっこりと場に不釣合いな笑みを浮かべる藤代さま。紅茶色の甘い髪と目が好きだったはずなのに、何故だかその姿に吐き気がした。

「ねえ、陸ちゃんに言われる筋合い、ないでしょお?」
陸ちゃんも、週一でしか仕事しないんだから。

にこにこ笑い続ける。甘い笑顔から吐き出される棘を孕んだ言葉に、聞いてるこちらの胸が痛くなった。
違う、違います藤代さま。桂木さまは一週間ほど前からずっと、生徒会の仕事を一人でなさってるんです。新歓の準備とか、普段も忙しいのにもっと仕事量の増えた生徒会のそれを、一人で。
「生徒会役員が転校生に惚れ、ないがしろにしている仕事を桂木さまがお一人で処理しておられる」学園内で専らの噂。中々の情報通だったはずの藤代さまが知らないなんて、ありえるのだろうか。なんて、ぼくら親衛隊や生徒達との接触を一切絶ってしまわれた藤代さまに、そんな噂耳に入るはずがないのは、・・・わかりきっていることだ。

「週一?そういえば、初めて生徒会室で会ったとき竜たちとそんな話してたよな。」

何時の間にか藤代さまの手を口から外した転校生が、首を傾げる。

「そうだよお、陸ちゃんはね。生徒会役員の中でも特例で、週に一回しか生徒会室に来ないんだよ」
「そうなんだ・・・なんで?」
「生徒会って、全校生徒、全教員の投票で決まるんだよね。道哉ちゃんも説明受けたでしょ?」
「うん、人気あるやつが選ばれるんだよな?」
「そうそう。それでえ、見事生徒会選挙という名の人気ランキングで二位を獲得した陸ちゃんは、それにも関わらず生徒会入りを拒否しちゃったんだよ。それで教員と理事の苦肉の策として、陸ちゃんは週一しか生徒会室に来なくていいんだよねえ」

桂木さまに向けていたそれと同じ笑顔で、でも優しい声色で喋る藤代さま。その言葉に頷いて、転校生は顔を少し俯けた。


「それって・・・」
「 ? 」
「どおしたの、道哉ちゃん」

不意に、顔を俯かせてぽつりと搾り出すように言葉を発する転校生。藤代さまたちはそんな転校生に首を傾げる。ああ、嫌な予感。

「それって、・・・おれいけないと思う」
「・・・?」
「だって、みんなから陸ならできる、って生徒会に選ばれたんだろ? なら、そんな週一で、とかふざけてちゃダメなんじゃないか?」
「・・・・・・、え、・・・」
「おれ、おれ陸が良いヤツだってわかってる・・・わかってるから、陸なら出来る、っておれは信じてる。・・・な、週一とかじゃなくて、ちゃんと毎日仕事しよう」

無知は罪ではない。そう思うけど、転校生の見当違いな言葉に呆れる。怒りも湧いてきた。ぼくは藤代さまの親衛隊だけど、桂木さまや他の生徒会の方々にも憧れて尊敬しているから。桂木さまがどれだけ頑張ってらっしゃるのか、僕ら生徒達は知ってるから。

優れない顔色、ふらふらとした足取り。穏やかな静寂を愛する桂木さまを最近取り囲む、ピリピリとした空気。
今だって。頭に包帯を巻いて、額に傷をおって、顔色も酷くて・・・見るからにぼろぼろなのに・・・それでもよく見える片方の目は怒りなど宿していなくて。理不尽な周りに、優しすぎる桂木さまを見てるのが辛かった。いまの藤代さまは、ぼくの憧れた藤代さまじゃないのだ。

「茜たちがサボっちゃうのも・・・陸がいいなら自分も、って思っちゃったからかもしれないだろ?」
「道哉ちゃん、・・・」

まるで己を庇うような転校生の言葉に、感動したように名を呼ぶ藤代さま。転校生は桂木さまの右手を、両手でぎゅうと握り締める。見えない目で真っ直ぐに見るその姿に、合点がいった。


生徒会役員と真っ向に対峙する生徒なんて、一握りしかいない。近付いた分の見返り、制裁が怖いからだ。・・・それ以上に、生徒会役員の凍てるような眼差しが恐ろしくて誰も話しかけることが出来ない。対峙できる、その一握りの生徒は大抵役付きで、その生徒も美形で親衛隊持ちがほとんど。・・・だからこそ、親衛隊という後ろ盾も、この学園では大いに役に立つ美貌も持たない冴えない生徒が、真っ向から自分達に関わってくるのが珍しかったんだろう。
最初は興味、そして次第に転校生の真っ直ぐな心に惹かれていった・・・そんなところなのだろうか。

(ああ、でもそれは・・・)


なんて愚かで、馬鹿々々しいものなのだろうか。

自分を慕ってくる親衛隊をセフレのように扱い、モノのように使い捨てるくせに。端から大事にしようとしない相手に、いくら憧れの君だとしても誰が心を許せるだろうか。他の生徒達が正面から関わりあう機会を潰しているのは、自分自身だというのに。・・・なんて。
結局は、壁を越えることのできた転校生を羨んでいるだけなのだ。

でも。

「な、陸。わかってくれたか?」

それとは関係なく、あの転校生への怒りは抑えきれそうになかった。





2010/03/22/


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