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(主人公視点)



ざわつきの収まらない食堂に溜息が零れる。稜とくっつきあったままの体勢で、右手で尊先輩の服を引っ張った。

「・・・ご飯、・・・約束・・・、」
「あ、ああ。・・・その、稜くん、も、一緒に食べるといい」
「いえ、僕はもう食べたので。」
「・・・稜、一緒に食べない・・・の?」

首を傾げてる間に、稜が腕の中からするりと出て行く。なくなった体温になんともいえない寂しさを感じつつ、夕飯一緒に食べれないのか・・・なんて落ち込んでみたり。

「うん、ごめんね陸。ああでも、ご飯食べ終わったら髪の毛切らせてね。」
「・・・うん、」

にこ、と笑う稜に何も言い返せず、小さく頷く。

「ご飯食べる前に切りなよ、陸。それと傷の手当てもしておいで。」
「俺もそうしたほうがいいと思うぞー。夕飯は待っといてやるからそれどうにかしてこい」
「ああ・・・確かにそうだな。まず怪我の手当てをしなければ。」

峻先輩を筆頭に喋りだす委員長たち。ちなみに雨宮は固まったままで、転校生は会計に慰められてる真っ最中。食堂にいる生徒達は稜を非難することもできず、成り行きを見守っている。

「・・・わか、りました。稜、」
「うん。・・・じゃあまず、保健室に行こう」
「ん、・・・」

稜の手をとって、委員長たちの方を向く。目礼して尊先輩を見つめる。

「・・・また、後できま、す」
「わかった。・・・ああ、いや、」
「?」
「今日はもう食堂で食べるのはやめにしよう、」
「?」

首を傾げる。約束はいいのか?

「今日はもう、落ち着いて夕飯を食べれそうにないからな。食堂じゃなくて、別の場所で食べよう。峰もそれでいいだろう?」
「ああ、かまわんぞ。如月はどうする?」
「夕飯はもう摂ったけど・・・。そうだね、陸の顔が気になるからご一緒させていただこう。何処で食べるんだい?」
「・・・俺の部屋で、いいなら」

俺の顔?なにも変わらないと思うけど。・・・まあ、目が見えるのと見えないのでは大分印象かわるから、なんともいえないけどな。これは転校生にもいえることだ。

「陸の部屋、・・・ならそうしよう。」
「救急箱は持ってるのか?」
「、ないです」
「なら俺の部屋にあるから取って来るな。」
「、・・・わかりました」

爽やかに笑った体育委員長は、俺の頭を撫でると踵を返した。部屋に救急箱を取りに行ったのだろう。

いまだざわめき続ける食堂。・・・尊先輩の言う通り、確かにこのざわついた食堂であまり食事を摂りたくない。第一、煩い転校生やら睨みつける不良やら役に立たない会計と同じ場に居たくない。あ、・・・そうだ。

「陸?」

突然手を離した俺に、稜から名前を呼ばれる。稜にちょこっと目配せして、目当ての人物の元へ歩く。

「会計、・・・ふじ、しろ・・・」
「うん?・・・どうしたの、陸ちゃん?」

転校生を抱きしめて頭を撫でる会計。慈しむ様な表情の似合わない男だと頭の片隅で考えつつ口を開く。

「おまえも、・・・会長たち、も、し「陸っ!?」・・・」

俺の声に反応してか、会計の腕の中で身を捩る転校生。こちらを見上げる転校生の後ろで会計が睨んでくる。

「どうしたんだ?なんか用事か?」

ああ、その通りだよ。今まさに会計に用件を伝えようとしてたところだっていうのに・・・。

「茜に?それとも・・・お、おれに、か?」
「はーい、道哉ちゃんはちょっと静かにしててねえ。陸ちゃん、用があるなら早く言って?」
「・・・仕事、しに来い・・・。」
「? 仕事?」

転校生の口を塞いで無理やり黙らせた会計に内心感謝しつつ頷く。奇妙な顔をした会計は、小さく噴出した。・・・なんだ?

「・・・あは、まさか生徒会の出席率が一番悪い陸ちゃんに言われるなんて意外。」
「・・・お前たち・・・最近仕事してない、だろ」
「まあまあ、心配しないでもお。一週間くらい行ってないけど、どうにもなってないから大丈夫でしょ。っていうかおれ達が仕事してないってよくわかったね。生徒会室に陸ちゃん来ないのに」

どうやって知ったの?なんて笑う会計。・・・いや、生徒会が仕事怠慢で問題になってないのは、俺が代わりに全員分の仕事をしてるからだよ。何が大丈夫なんだ。というか、俺が仕事してること知らないのか。知ってて来ないんだと思ってた。
・・・まあ、転校生と寮の部屋に篭ってれば噂も耳に入らない、よな・・・。顧問から仕事するように連絡いってるはずなんだけど。

へらりとゆるゆるな笑顔を浮かべる会計に一瞬殺意的なモノが湧いたけれど、次の瞬間にはどうでもよくなっていた。


ああ、めんどくさい。





2010/03/21/


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