37
(稜視点)



あか。陸の額から一筋、流れるそれ。

あかい血が陸のあおい目を侵食していく。雪のように白い肌を横切り、形の良い薄い唇を掠めて顎へ伝い、白いカッターシャツをヨゴしていくそれ。

陸、陸陸陸・・・陸

ぐらりと目の前が真っ暗になる感覚。自分が傷付いたわけでもないくせに、震えを抑えることが出来なかった。

灯や海斗が何かを言ってたかもしれない、僕を引き止めてたかもしれない。でもそれは全て僕の耳に届くことはなく、己と陸の間に立って僕の名前をそれはそれは嬉しそうに呼ぶ道哉なんて目に入ってなかった。あとから如月先輩に、"面白いものを見せて貰ったよ"と礼を言われるほどに、僕が無視をしてしまった道哉の動揺は凄まじかったらしい。正直なところ陸しか目に入ってなくて、全然気付かなかったけど。


「陸っ、!」

道哉を押しのけて、陸の前に立つ。傷口から血は止まっていたし、流れていたそれも綺麗に拭い去られていたけれど、額を横切る切り傷に背筋が凍る。

痛みなんか感じてなさそうに無表情で佇む陸は、僕の姿を見て表情を緩ませた。この前生徒会室で会ったときとは違って、よく見える片目が柔らかく微笑む。

「稜・・・!」
「陸、傷大丈夫なのっ?血は止まってるけど、あああ消毒、消毒しなきゃだよね、それからえぇと、・・・」

後から考えるとすごく恥ずかしいんだけれど、混乱の極みというかなんというか。とにかく陸の傷をみて本人以上に慌てる僕。
周りの様子にちっとも気なんて配れなかったけど。傷に伸ばした僕の両手を陸がぎゅうと握り締めて、そのまま陸に抱き寄せられてやっと僕の頭の一部が冷静になっていくのを感じた。

途端に耳に入る悲鳴。他の生徒から発せられるそれに、背中に冷や汗が伝った。

「り、陸、離し・・・」
「だいじょうぶ、だよ・・・。」
「え・・・?」
「傷、たいしたことない、から。」
「・・・うん・・・。良かった、本当に。・・・で、ちょっと離れない?陸」
「・・・・・・」
「・・・?」
「・・・ごめん、稜。いまだけ、ぎゅってさせて」

ぎゅううと、僕を抱きしめる陸はそれだけ言うと、僕の頭の上に額を乗せて息を吐く。普段の抱擁よりも、体重をかけてもたれかかる陸の様子に、疲労がみえて何も言えなくなった。

「稜、・・・ごめん」
「なにが?」
「稜に傷、つけたくないから・・・内緒にしておこう、って言ってたのに。・・・バレちゃったから。」
「僕と陸が抱擁しちゃうような仲だって? 謝るなら僕のほうだよ、陸。だって先に名前を呼んだのは僕だもの」
「でも、・・・俺が稜を抱きしめてて、・・・今周りからの悲鳴、酷いのに・・・」

俺、稜のことまだぎゅっとしてたい。


ぽつり、陸はそう呟くと、僕にまわす腕の力を強める。甘えるように頬を摺り寄せて、深く息を吐く。

「ねえ、陸」
「ん・・・・・・」
「前髪ちょっと切れちゃったね」
「・・・ああ、・・・」
「遅くなったけどさ、」
「うん・・・?」
「陸の前髪、僕に切らせてくれる?」

返事の代わりに、何時かされたように頬に陸の唇が落とされた。





2010/03/18/


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