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(第三者視点)



コップを投げた生徒は既に食堂から立ち去り、食堂には道哉と峻の言い合いが響く。

「皆しておれのことを無視するなっ! それにお前! 後から出てきて、陸を傷付けたあいつを勝手に帰すなんてどういう神経してんだよ!! 陸に怪我させたヤツだぞっ? 陸の気持ち考えろよっ!」
「耳が痛い、わたしの前で美しくないものが口を開かないで。」
「なっ、お前も見た目で判断するのか!」
「見た目云々以前にお前は中身が美しくない。」
「なんだよそれっ!? 失礼だろ! 第一、お前誰だよ!?」
「美化委員長の如月峻。お前の名前は言わなくていい、興味ないから。」
「そんなこというなよ峻! 俺の名前は秋月道哉だ、憶えろ!」

ぴくりと、峻のこめかみが引きつる。

「・・・名前を、呼ばないでくれる?」
「なんでだよ、別にいいじゃんか」
「わたしは三年生、お前は一年生。お前は敬語の一つも使えないの?」
「な、なんだよ。そんな固いこと言うなよ! そ、そうだ! 友達になろう! 友達なら敬語とかいらないだろ峻っ!?」
「友人には事欠いてない。わたしの名を呼んでいいのは家族と陸だけだよ」
「陸はいいのにおれはダメなのかよ!?」

その姿はまるで癇癪を起こした幼子のよう。出そうになる溜息を噛み殺して、峻はいらいらとした様子で道哉を睨みつける。

「昨日今日顔を知ったばかりの人間と、陸を比べろって? 無理な話言わないでくれる」
「ならっ、今からお互いのこと知っていけばいいんだな!」
「・・・はあ、わたしの言葉を理解できないわけ?」

一方的な怒鳴り声に、冷静にというより冷酷に対応していく峻。絶対零度の視線を向けられてよく言い返せるな、妙な感心の目が道哉に集まる。
怒鳴る道哉に、これ見よがしに溜息を吐いてみせた峻は、めんどくさそうに顔を歪めて陸たちの方を向く。

「木野、峰。あの騒がしいのどうにかならないの?」
「どうにもならんな。峰はどうだ?」
「俺にもアレはちょっとムリだな!」

爽やかに笑う高貴。それを見て峻と尊は溜息を吐き、いまだざわつく食堂に頭を抑える。

「じゃんけん、」
ポン

委員長三人が、峻の号令と共に唐突にじゃんけんをする。

「お、勝った」
「わたしも勝ち、木野の負けだな」
「・・・くそ、」

むむ、と己の拳を睨みつける尊。チョキだしてればよかった、後悔するも余裕の笑みを浮かべる峻と高貴に腹を決める。

なんだかんだで仲の良いらしい委員長たちは、よくこうやってじゃんけんで物事を決める。理由は公平かつ一番手っ取り早いから。

「じゃあお前達は他の生徒達をどうにかしろ」
「わかってるって、」
「そのくらいなんでもない」
あの宇宙人と対するくらいなら。峻は憮然とした表情で言い切った。

ちなみに三人の後ろで、先ほどからずっと道哉は怒鳴りっぱなしである。途中からへらりと笑った茜やらぎらぎら睨みつける仁やらも参戦していたが、まあ委員長ズの神経の図太さが判明したわけで。つまりまるっと三人を無視してるということだ。
陸はというと、血の止まった額を「ピリピリする。ちょっと痛い、かも」なんて内心で評価しつつぼんやりと全員のやり取りを眺めている。なんだかんだでちゃっかり安全圏に居る。

「お前たち、見てないで早く食事を摂りなさい。」

峻が生徒達のほうを向いて、そのよく通る声で言う。峻の親衛隊が多く居る三年生がそれに従い各々席に着き始めたのを見て、一二年がそれに習って徐々に散らばっていく。俺やることなくね? 笑う高貴に峻は肩をすくめる。

その様子を横目でみて、尊は道哉と対峙した。

「お前達も散れ。これ以上騒いでも食事を摂る生徒達の邪魔になるだけだ。」
「っ、誰だよおまえ! それにあいつらも、何なんだよ!」
「オレは文化委員長の木野尊。あとの二人には自分で名前を聞け。」
「木野、尊? 文化委員って生徒会のことよく思ってないって噂の? なんでそんなヤツが陸と一緒に居るんだよ!」
「・・・、これ以上の騒ぎは他の生徒達の迷惑となる、そう言った筈だが?」
「誤魔化すなよ! おまえ、陸に近付いてなに企んでんだ!!」
「・・・・・・」

なにこれ話し通じない。峻が宇宙人と評したのにも納得、というかまんま宇宙人だよこれ。尊の沈黙が物語る、誰か通訳つれて来い。

「えーっと、お前、転校生だっけ? 名前は? 俺は体育委員長の峰高貴だ」
「え、あ、・・・おれは秋月道哉、・・・、だけど?」

そんな尊の後ろから道哉に、場に不釣合いな爽やかな笑顔を浮かべた高貴が話しかけた。突然別の場所から話しかけられ、一瞬混乱する道哉。

「ふうん、秋月ね。なあ秋月、俺いまめっちゃくちゃお腹空いてるから早く飯食べたいんだよな。」
「え? そうなのか? なら食べればいいじゃん」
「そうなんだけどよ、一応委員長職に就いてるから騒ぎが起こってるのは鎮めなきゃいけないんだよ。わかるか?」
「う、うん。」
「じゃあ後ろの二人連れて席に戻るなり部屋に帰るなりして貰っていいか?」
「え、なんでだよ」

ぽかん、と首を傾げる道哉。それよりも尊と峻は、二人の会話が成立してることに感動していた。高貴って実は凄いヤツなのかもしれない、あの天然は対転校生への武器になりえている。

「なんでって、まあお前ら三人がうるさいからだな」

にかっ、と笑う高貴。天然であるが故に直球な彼の言葉に、場が変な空気に包まれる。全然武器になりえてなかった、寧ろ火に油? 天然とKYは近づけちゃいけないことがよくわかった。ぽかんとした後に、拳を握り締めて震えだす道哉。後ろで仁は今にも殴りかかりそうである。茜は何故か噴出しそうだった、あまりにもその通りな言葉過ぎて。


「っ陸!!」

あわや噴火する寸前、遠くから聞こえた声に道哉がピタリと止まる。いやいや、名前を呼びかけられたのは君じゃないからね。そんなことは道哉に関係なかった。
声の主が誰だかわかって、今までの怒りを忘れて道哉は顔を輝かせる。

「稜っ!」


陸の鬼門は食堂じゃなくて、道哉かもしれない。





2010/03/17/


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