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(一般生徒視点)



「痛むのか? 大丈夫か陸? まじで最低だよなっ。安心しろよ陸、おれがちゃんと陸の代わりに怒っとくからさ。喋るの得意じゃないだろ? だから、陸の言葉はおれが伝えるよ。それよりも血が中々止まらないから保健室行こうぜ? なあ、陸」

コップを投げたのは己であると、そう言って謝りに言った生徒の手からハンカチを奪い、転校生はそれで桂木さまの血をぬぐう。後ろで小刻みに震える生徒を尻目に、桂木さまをいたわるように優しく血を拭く彼。

この場面だけみれば、桂木さまの怪我を心配し、傷つけた生徒に対して怒りを隠せない転入生、それだけである。
いや、確かにその通りなのだが、どこかが違った。空気が読めないとかそういう以前に、彼は根本的におかしかった。


確かに桂木さまは無口だ。だからこそ、彼がたまに発する言葉は飾られることがない。そんな彼は、結果的に己を傷つけてしまった生徒に対してなんといった?
"・・・だいじょうぶ、"確かにそう言ったのだ。心からの謝罪を口にする生徒を、彼は赦した。きちんと己の言葉で、だ。

それなのに、転入生はまるでその言葉なんて聞いてないように振舞っている。"おれがちゃんと陸の代わりに怒っとく"? そもそも桂木さまは、もうその生徒に対して怒りなど抱いていない。"喋るの得意じゃないだろ?"と転入生が桂木さまを評した通り、言葉数少ない彼はとうに赦しの言葉を言ったはずだ。これ以上転入生が口出しする必要がどこにある?


それ以上に、なぜ傍目から見ていてもわかるほど桂木さまに忌避されている彼が、"陸の言葉はおれが伝えるよ"などと軽々しく口にできるのだろう。

彼は、おかしい。物事を自分の都合の良いようにしか捉えない、そういう人物なのだろうきっと。いやおそらく絶対に。

桂木さまが微かに眉をひそめても、転入生は気付かない。藤代さまや雨宮くんは、転入生に肩入れしているのか、眉を顰める桂木さまを睨みつけていた。

ああ、なんだか。転入生がきてから、この学園はおかしくなっていくようで、ひどく不快だった。





2010/03/17/


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