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(体育委員長視点)



階段までの道がぱかっとあいた光景に感動する。おお凄いな、俺だけじゃちょっと騒がれはするがここまでならないし、木野も俺よりは騒がれるが矢張りここまでならない。生徒達は食事をとりつつもこっちを見てざわめいたり、中にはすてきー!とか、だいてー!とか叫んでくる奴も居るが、まあ。
陸が居るってだけで食堂中の生徒が一瞬動きを止めた。そしてこぞって陸の姿をみようと押しかけるくせに、一定の距離を保っているから陸が人ごみに揉まれることはない。松野の奴らもこんなになるのか? 生徒会って凄いな。ざわめく生徒達の中でも特に、恐らく陸の親衛隊のざわめきはでかい。陸の頭に巻かれた包帯をみて、"正体のわからない陸に怪我を負わせた誰か"を罵ってる声が、人垣の中から時折聞こえる。

凄いな、なんて暢気に笑って階段に足をかけたところで、階上から黒いまりもが現れた。・・・ん? 人間か? ・・・すごい髪の毛だな。

「り、陸・・・!」

黒まりもは陸の怪我を見て泣きそうな顔をしている。多分な。顔見えないけど、雰囲気が泣きそうなんだよな。それにしても黒まりもが現れたことによって一層酷くなる罵声。ちょっとざわめく程度だった(恐らく)一般生徒からも罵詈雑言吐かれてる黒まりもは一体なんだ?

「その怪我・・・! お、おれ・・・、ごめんなっ! 痛いよな・・・っむご!?」

おー、・・・いま不味い言葉言ったんじゃね? 今の黒まりもの発言で、陸に怪我を負わせたのがこいつだと判断した生徒達。罵声で耳が痛いってあんまりよろしくねえよな。なんて考えてると、黒まりもの後ろから会計が現れた。紅茶色の髪の毛を無造作に遊ばせたそいつは、ゆるゆるーな空気を纏って困り顔で黒まりもの口を抑える。あ、なんか思い出した。こいつか、例の転校生は。

「ちょおっと道哉ちゃん静かに、ね?」
「むぐぐ、むご・・・!」

口を押さえる会計の手を叩いて、恐らく離せ、とかそういうことを叫ぶ黒まりも。俺も会計に従って大人しくしといた方がいいと思うぞー? 生徒達の殺気はんぱねえから。

「、っと。陸ちゃん、頭どおしたの? 痛そうだけど・・・だいじょうぶ?」
「・・・・・・、べつ、に」

へらりと笑いかけてくる会計に、興味なさそうに返す陸。なさそうじゃなくて実際にないんだろうな。

「陸ちゃんってどじっこだもんねえ? こけちゃったの?」

言外に黒まりもの所為じゃないといえ、みたいなことを含ませる会計。目が笑ってねえぞー。

「かんけ、・・・ない」

しかし見事に会計の思惑の斜め上をいく陸。この状況で関係ないって、生徒会の奴ら仲悪いのか?
少し顔を引きつらせた会計に、陸は本当に興味がなくなったのかそっぽを向く。何時の間にか黒まりものそばに来ていた雨宮はぎらぎらとした目つきで陸を睨んでるし。張り詰めた空気が漂う中、甲高い声が響き渡る。

「桂木さまに近づくなっ・・・この尻軽!!」

声と共に飛来するコップ。あからさまに黒まりもを狙ったそれに、ほとんど反射で手を動かした会計。まあそりゃあこのままいくと直撃コースだから当たり前だ。
会計の手に当たって方向がそれたコップは、そのまま陸を掠めて手すりに当たって砕けた。

キャアァアア!!

砕けた破片はそっぽを向いていたために、手すりの方に顔を向けていた陸の額を掠る。想像以上に鋭かったのか、硝子片は陸の額に3cmほどの傷をのこし、そして前髪を数束切り取っていった。
響く悲鳴。

硝子に持っていかれた、前髪があった場所から覗く左目。ビックリしてるのか動きを止めた陸に、木野が焦ったように近づく。かくいう俺もハンカチ持ってねえよ! とか焦ってる口だけど。


陸って疫病神でも憑いてるのか?災難過ぎるだろ。





2010/03/15/


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