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(第三者視点)



少しだけ大げさに巻かれた包帯の白と、陸の艶とした黒髪の対比が酷く痛々しく見えた。

黙り込んで目を臥せる陸の頭に、アイスノンを固定してぐるぐると包帯を巻いた高貴は満足そうに笑うと自然な動作で陸の服に手をかける。

「…っ! な、に…っ?」
「服を脱がすだけだから気にするな!」

気にします。爽やかに言い切った体育委員長を前になんともいえない表情を浮かべる陸。なんだろうこの人天然なのかな? 陸はとりあえず焦りつつも、服を脱がすために釦を外していく高貴の腕を掴む。

「なんだ?」
「・・・、自分で、脱げ、・・・ます・・・」
「遠慮するな! 脱がしてやるから大人しくしてろ」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・」

ぐぐぐ、

笑顔を浮かべる高貴と無表情な陸が、無言で腕の押し合いを繰り広げる。体育委員長であり剣道部主将である高貴の豪腕に、普段引きこもってばかりの陸が勝てるはずも無く。その上力を込めると背中は痛むし未だに頭はずきずきとした痛みを訴えてくるし。やや劣勢気味な陸はそれでも頑張って抵抗をする。
男に脱がされるのってどうよ。なんか色々プライドとまではいかないが、男の沽券というものが壊れそうな気がする。

「観念しろ、陸」
「・・・・・・や、です・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」

「・・・、何してるんだお前達・・・」

シャ、と閉じられていたカーテンを開いて、湿布を取りに行っていた尊がちょっとシュールな空間に入ってくる。現れた人物に押し合いをしていた二人はぱっと顔を明るくさせた。

「木野! こいつが服を脱ぎたがらないんだ!」
「・・・、陸、湿布を張らなくてはいけないから脱いで欲しいんだが。」

あれ、なんか尊先輩も体育委員長側についたような・・・!

「だ、って・・・、自分で、脱げるのに・・・」
「 ? 」
「そうなんだよ、俺が脱がそうとすると拒否するんだ」
「それはお前が悪い」

ああ、でも。

半眼で高貴に向かって断言した後、尊はふと考えるように目を伏せる。

「・・・・・・ああ、・・・そうだな。」
「 ? 」
「オレたちが脱がせてやろう陸」
「!? (なにがどうしてそうなった・・・!?)」

唖然とする陸の服に手をかける。呆然と見上げてきた陸に、尊はにっこりと微笑み返した。

「腕を動かすのすら痛いだろう、背中」
「・・・・・・う、」

ぎくりと肩を揺らす陸。顔を伏せて目をそらす様は、頭に巻かれた包帯も相俟って儚く見える。学園の殆どの生徒たちなら、その姿にくらりと眩暈を起こしただろう。桂木さまを守ってあげたい、・・・! なんていうよくわからない使命感と共に。しかし今ここにいるのは、普通とは言いがたい委員長が二人。

尊と高貴の目には、なんだか叱られて耳と尻尾を垂らすわんこにしか見えなかった。

「陸、」
「・・・みことせんぱい、」

頭に手をのせて、ふわりと陸の頭を撫でる。優しく微笑んだ尊に、陸の気が緩む。

「いまだ峰!」
「それきた木野!」

ガシッ(高貴に両腕を拘束された音)

にっこり。笑う両委員長に、陸は顔を引きつらせた。

「や、やめっ・・・!」
ひぃああ!

こうして無事(とはちょっと言いがたいがまあ無事)に背中に湿布を張り終えた陸は、ベッドの上で枕を抱きしめて暫くの間いじけてたとか。
そんな陸を、やっぱりわんこに見える・・・、なんて考えつつ見つめる両委員長がいたことはいうまでもない。





2010/03/13/


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