27
(主人公視点)



暗闇にあった意識が浮上する感覚。
いまだ痛む頭をどこか他人事のように認識しつつ、開いた目へ真っ先に飛び込んできたのは、白亜の見慣れない天井だった。次いで感じたのは両手から伝わる熱。

「陸っ、起きたか! どこか痛むところはないか? ああ、無理して身体を起こさなくていい。楽な体勢でいろ。・・・とにかく、目を覚ましてよかった、」
「・・・・・・、みこと、せんぱい?」

ああそうだ、確か自分は転入生と不良と別れたあの後、結局倒れてしまったんだっけ。壊れ物を扱うかのように抱き起こされたのを憶えている。しかし俺を抱き起こしてくれたのは、尊先輩じゃなかったはず。
ぎゅうと俺の片手を握り締める先輩に首を傾げていたら、反対側から声をかけられた。

「頭痛いだろ。でっかいたんこぶできてるぞ、お前」
「、・・・? ・・・みね、こうき・・・せんぱ、い・・・?」

ニッ、と爽やかに笑っていう人は、一瞬だけ浮上した意識の中で、峰高貴と名乗った人だった。こざっぱりとした爽やかな印象を受ける短い黒髪に、太くて短い眉がとても凛々しい。あの時はやはりちょっと混乱してたらしく全く思い出せなかったが、確かに目の前にいる男の人は記憶にある三年の体育委員長その人で。というかもう一方の手を握り締めてるのはこの人か・・・!

体育委員長に名乗ってもらって、尊先輩の顔をみて、・・・その後の記憶がないということは気でも失ったのか俺は。
小さく溜息を吐く。

「おお、殆ど意識が無かった時に名乗ったのに、よく憶えてたな!」
「・・・、まあ、いちおう・・・」

殆ど意識無いって気付いてたなら、名乗るのってどうなんだ。なんかちょっとズレた人、そんな感想を抱く。

「俺、どうやってここに・・・?」
「ん? 俺がだっこして運んだ!」
「だっ・・・」

こだと・・・!? なにその羞恥プレイ・・・! この年になってだっこ! 抱っこって言い方可愛いな体育委員長・・・!

ちょっとずつ顔が熱くなってきた。転入生に絡まれて不良にどつかれて気を失って・・・挙句に抱っこ・・・!
しかし、俺が運んだ、と目をキラキラさせて言う体育委員長に気まずくなる。大型犬を髣髴させる姿にちょっとひるむ。

「・・・その、・・・あ、りがとう、ございました・・・」
「どういたしまして、だ! お前名前は?」
「、桂木陸と、・・・」
「ふうん、陸ね・・・。よし、陸!」
「な、んで、しょうか・・・?」

やばい俺この人苦手だ・・・! 転入生とはまた違った天然の予感がする。体育委員長の愛嬌ある大きな丸い目がこちらを見て、ふいに鋭く細められた。

「お前、なんで倒れてたんだ?」
「・・・・・・、」

目を細めるだけで、ゴールデンレトリーバーからドーベルマンになったかのようにがらりと体育委員長の印象が変わる。・・・つまり怖い。

息を呑む俺。そんな俺をじっと見つめる体育委員長。無意識に後ずさろうとする身体はベッドに寝転がったままなので、圧迫された背中がずきりと痛んだ。

「、・・・ちょっと、・・・いろいろ、あって・・・」
「いろいろ?」
「そのいろいろを詳しく知りたいのだが」

尊先輩まで参戦してきた。なにこれなんで被害者の俺が尋問受けてるみたいになってるの。ごくりと唾を飲み下す。見下ろしてくる両委員長が迫力ありすぎて怖かった。

・・・・・・え、なにこの状況のまま次話に行くわけ!?





2010/03/12/


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