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(文化委員長視点)



青白い顔をした陸は、まるで死んだように眠っている。眠っているというよりも半ば意識を失っている陸の容態は、保険医の話によると後頭部にたんこぶ、背中には広範囲にわたる打撲、しかも栄養失調の上に過労。なにをしたらここまで、そう思うほどのぼろぼろっぷりに逆に驚く。
他役員が転入生に構いっきりで、陸が生徒会の仕事を殆どこなしているという噂を耳にしてはいたが、正直ここまでとは思っていなかった。ベッドの傍らに座って、陸の青白い頬を撫でる。目元にかかる前髪を払っても、瞼一つピクリとも動かさない陸。

「後頭部と背中を強打、か。どう思う? 木野。」

その様子をじっと見ていた峰が問う。

「、決まってる。・・・誰かに床、あるいは壁に背中から叩きつけられたんだろう。」
「・・・まあそれが妥当だよな。に、してもだ。天下の生徒会に手を出す奴なんているのか?」
「・・・・・・」
「暴力とはかぎらないけどな。盛った生徒に襲われたとか、」
「っ峰!」
「怒鳴るな。そういう可能性もある、って話だ」
「・・・わかって、いる。・・・すまない、」

その可能性だけは否定したかった。
身長はそこそこあるため、彼の親衛隊はチワワのような生徒が大半だが、ごつい生徒も確かにいる。細身の陸は、よく見れば細身という言葉以上に、折れそうなほど華奢だということがわかる。峰の言う通り、生徒会に手を出すヤツは滅多にいない。けど絶対にないとは言い切れない。可能性の話だとはわかってるが、もしそうならと考えるだけで、頭が怒りで沸騰しそうだった。

「陸・・・」

陸の頬に片手をあてたまま、もう一方の手で陸の手を握り締める。らしくないのはわかっている、けど。会議で出会ったあの日からずっと、オレは陸のことが大事で仕方ないのだ。あれからポケットの中の飴玉が切れる日は一日もなく、たまに廊下で会う一時がとても大切な時間になっていて。
頭や背中の怪我を負わせた誰か以上に、こんなに疲労困憊するまで陸の体調に気付けなかった自分が一番憎らしかった。

「・・・らしくねえな」
「わかっている。確かに、こんなに他人を心配するオレは珍しいだろう」
「いや、そうじゃなくて」
「 ? 」
「確かにそれもだけどな、相手が生徒会って言うのがな。お前生徒会のこと毛嫌いしてただろう」
「・・・陸は、あいつらとは違うからな」
「ふうん? まあお前が言うならいいやつなんだろうな!」

男らしい顔に、ニッと笑みを浮かべる峰。体育委員長である彼は、こざっぱりとした黒い短髪が良く似合う男だ。意外に大きい茶色の瞳を細めて破顔する顔は、恐らくファンなら悶絶モノだろう。
・・・確かに騒がれるだけの整った顔立ちをしている。まあオレよりゴツイ男に興味はないが。

「にしてもよ」
「なんだ?」

オレが握っていないほうの陸の手を持ち上げる峰。目の前まで上げてまじまじと見つめる彼に首を傾げる。

「こいつ細すぎないか? 体重いくらだろ」

・・・・・・。
その話題、いま必要か?

細すぎるのは確かにオレもそう思うが、・・・。

「なあ、今度肉いっぱい食わせてみようぜ!」

いや、だからな。

「でもこいつ肉嫌いそうな顔してんな・・・」

・・・こういうのをKYと呼ぶんじゃないだろうか・・・。


(後日こいつを上回るKYな人物に出会うわけだが)





2010/03/11/


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