19
(主人公視点)



背中を優しく叩き続ける譲の掌に安心しつつ、彼の腕の中で身じろぐ。そろそろこの体勢、恥ずかしくなってきた、・・・。

「・・・ん? どうした陸」
「・・・ゆず、る・・・。も、だいじょうぶ」

俯かせていた顔を上げて譲を見たら、ひどく優しい目で見つめ返されてビックリした。一人で内心慌てていると、ざわざわとしていた空気が一瞬止まる。

「まったく、落ち着いて食事を摂ることもできないわけ?」

男の人にしては、高めの甘い声。聞き覚えのあるそれに顔を背後に向ける。誰もが息を呑む中、言葉の割りに今まで食事を摂っていた彼は口元をナフキンで拭うと、静かに席を立つ。
甘い飴色の、柔らかそうな髪の毛と、同色のきらきらした瞳。女性と見紛う程の美貌に不遜な笑顔を浮かべたその人は、俺の方へ歩み寄ってきた。

「ここは役付きの生徒専用席だ。確かに誰か役員の許しがあれば食事を摂ることもできるが、マナーの欠片も知らないような奴は遠慮してくれる?」

その人、美化委員長である如月峻先輩に鋭い目で睨まれて、転入生がすこしたじろぐ。

「だ、誰だよお前! いきなり失礼だろっ!」

峻先輩の氷の目線で見られて、言い返す転入生をある意味すごいと感心してしまった。転入生が怒鳴った途端に階下から轟く罵声。峻先輩は三年の先輩方の間でとっても人気のある人なのだ。

「ふうん。わたしに失礼だと論す前に、お前はどうなのさ。静かに食事しているこちらの身にもなって欲しいなあ? ここは幼稚園じゃないんだから、友達とみんなで仲良く食事、なんてのを全員が考えてるわけじゃないんだよ」
「皆で食べる事のなにが悪いんだよっ! 陸はおれの友達だっ、一緒にメシを食べてもおかしくねえだろっ!」

友達になった覚えはない。転入生の言葉に、峻先輩の眉がピクリと動く。

「それ、・・・」
「は?」
「お前、誰の許可をとって陸のことを呼び捨てにしてるの?」
「きょ、許可って・・・何だよそれ! 友達なんだから、許可とかいらねえだろ!」
ギラギラと峻先輩の目が不穏に輝き、その目で睨まれた転入生が少し後ずさる。その転入生の背後に、すっと誰かが立った。

「道哉のことを責めるのはやめてほしいんですが、如月先輩」
「・・・更科か。なに、お前もこの転入生に惚れ込んでる訳?」
「そういうことです。・・・道哉、陸たちのことは今日は我慢してください。ね?」
「で、でも満、おれ・・・」

爽快と現れた副会長。表面的にはにこやかな笑み、だけど目だけは鋭く俺や譲、峻先輩を睨みつけている。後方では、出遅れたといわんばかりの悔しそうな表情を浮かべる他生徒会役員。
現れた味方に、ぱっと転入生の顔が明るくなるが、副会長の言葉に不満そうにもごもごと口の中でなにか呟く。

「おれ、陸と一緒にメシ食べたい・・・」

いい迷惑。
副会長他役員に睨みつけられる俺って一体。髪の毛のせいでよく見えないが、どうやら上目遣いでこちらを伺う転入生に、副会長が頬を染めた。彼の目には一体転入生の姿はどのように映っているのだろう、頬を染める要素が見当たらなくて途方に暮れる。

「・・・、やだ」

そう一言呟くと、泣きそうな雰囲気を纏う転入生。いい加減誰か彼のフルネームを教えて欲しい。前に聞いた気がするけど忘れてしまったから。

「な、なんでっ!?」
「ほら、陸は嫌だって。諦めろ転入生。」

転入生がこちらに詰め寄る前に、峻先輩が間に入ってくれた。転入生を軽くあしらいつつ、横目でさっさと行け、と言わんばかりの視線を投げかける先輩。一礼して譲とさっさと歩き出す。転入生を食い止めてくれている先輩に感謝、去り際にこちらに向かって浮かべた意地悪げな微笑に、後でなにを要求されるか不安になったけど。

峻先輩相手が精一杯のようで、転入生はこちらに気付いていない。副会長は意味ありげな視線を送ってきてるけど、無視することにした。


道を空けてくれる生徒たちに感謝しつつ、食堂を無事に出ることが出来た俺らはほっと溜息を吐く。

もう絶対食堂になんかくるもんか・・・!





2010/03/08/


prev next

MAIN-TOP

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -