(主人公視点)
耳を劈く悲鳴。
己の身体を包む、暖かい体温。
ぐらぐら視界が揺れた。
譲に連れてこられた食堂。何故だが生徒達が、息を呑んでこちらを見ていることに眉をひそめるが、きゃあきゃあ煩く騒いでいるわけじゃないから気にしない。
それよりも、今目の前にいる転入生の声の方が耳に突き刺さって煩わしかった。
きゃんきゃん吠えてるのが目に入るけど、完全に彼の言葉は右から左へ、である。それよりも、転入生の小柄な体型に似合わぬ馬鹿力で掴まれてる肩と、無理やり捻られてる腰が痛かった。
いたい、・・・ぼんやりと、転入生の手をどうやって離させるか考える。そうしたら何時の間にか席を立って近くに来ていた譲が、転入生の手を俺の代わりに離してくれた。
「おい、放せ。陸が痛がってるのがわかンねえのか?」
「あっ、ご、ごめん陸・・・! でも、無視する陸も悪いんだからなっ!」
「・・・・・・」
いらいら。食堂にさえ来なければ、こんなむかつくこともなかったのに。無視したのは故意だけど、だからこそ一緒に食べたくないって言う意思表示なんだって気付いて欲しかった。というか気付け。ご飯なんてもういい。転入生のことを視界にいれたくないし、向こうのテーブルでこっちを睨んでる他の生徒会役員の顔も見たくなかった。俺と譲が転入生に手を出すなんて、馬鹿なことでも考えてるんだろう。
席を立って譲の腕をつかむ。ぐいぐいとひっぱって、急いで食堂を後にするべく歩く。
「・・・帰るっ・・・」
あ、溜息吐くなよ譲。元はといえば譲が食堂に連れてきたせいだろう。
「ンな怒るなよ陸。途中のコンビニで弁当奢ってやるから」
「・・・。・・・プリン、も」
「アイスも買ってやる」
「・・・・・・怒ってない」
拗ねてない、頭を撫でるな。譲が自分でちゃんと歩き出したから、手を離す。背後でまだ何がしかを喚く転入生なんて、どうでもいい。
「・・・っ無視するな、ってば!!」
え、?
ぐい、と後ろから肩を引っ張られる。突然のことに驚いて階段から片足踏み外してしまった。慌てて体勢を整えるべく、踏み外したほうの足を地面にしっかりつけようとしたら、眩暈が襲ってきた。
あ、やばい。
グラリ、身体が傾く。自分でも気付いていなかったが、そうとう俺の体は疲れていたらしい。がんがんと痛む頭に顔を歪めて、ゆっくりと階段から滑り落ちそうになっていた。地面が目に入って、スローモーションのように周りの景色がうごく。動いてるのは俺か。
「、っ・・・!」
(お、ちる・・・)
「だいじょうぶか?」
「・・・っ、・・・」
「・・・陸?」
ぎゅ、と目を瞑ったときには、俺の体は引っ張り上げられていた。譲が手を引いてくれたようで、存外近くから声が聞こえてきて驚いた。
・・・それよりも、今になって指先が震えていることの方が情けなかったけど。抑えきれないふるえを誤魔化したくて、指先にあった譲の服を握り締める。迫る地面、身体がゆっくりと傾いていく妙な浮遊感。全てが気持ち悪くて・・・怖かった。
「・・・、っごめ、ゆず・・・。たすか、った・・・」
肩を包む譲の体温と、落ち着かせるように背中を叩く大きな掌に、ほうと安堵の吐息が漏れた。
2010/03/08/