16
(とある書記親衛隊員視点)



「あ! 陸じゃん! メシ食いに来たのか? 一緒に食べよーぜ!」

能天気に響く声に、怒りの余り視界がぐらりと揺れた錯覚。

転入生の秋月道哉! あいつ・・・! 桂木陸さまの下のお名前を! 呼び捨てに! するなんて・・・!!他の生徒会の方々には興味ない、いくらでもたぶらかしてくれてかまわないけど、桂木さまだけは許せない・・・!
いまボクら桂木さまの親衛隊の間では、秋月道哉が桂木さま以外の役員をたぶらかしている所為で、桂木さまがずーっとお一人で仕事をこなされていると専らの噂なのだ。廊下で拝見できる麗しいお姿は、最近なんだか足元がふらついていて悲しくなった。桂木さまがムリをして頑張ってるのに、アイツときたら役員の方々にチヤホヤされて馬鹿みたいに笑っている。それだけでもう、こっちは怒り心頭なのに、その上彼のことを呼び捨てにしているなんて! なんて馴れ馴れしい態度なの・・・!? ボクの周りに居た親衛隊の子達が叫んでいる。一気に煩くなった食堂内。騒がしいことがお嫌いな桂木さまが顔を少し歪めたのがわかって、背中がヒヤリとした。でも、すぐに顔の表情を元に戻した桂木さまは、無表情に秋月道哉を見つめる。傍らに立つ麻埼さまはあからさまに眉を顰めて秋月道哉を見ていて、どうやら桂木さまと麻埼さまのお二人は転入生にあまり良い感情を抱いていないことがわかった。

「・・・・・・」

秋月道哉を無視して、桂木さまは麻埼さまの手を引っ張り席に着く。秋月道哉がいるテーブルから離れた所に座った彼に、ポカンとする転入生。口を間抜けに開いたその顔に笑いが漏れる。あまり言葉を発さない桂木さまの拒否の体勢に、ボクら親衛隊はクスクスと嘲笑が漏れるのを抑え切れなかった。なあに? あの間抜け面! ぼさぼさの髪の毛の所為で目までは見えないが、恐らく転入生の目は驚きで見開かれていることだろう。笑える。

「・・・っ、おい! なんで無視するんだ!?」
「・・・・・・」
「おいっ! 陸ってば!」

しかしその嘲笑もすぐに止む。座っていた席から立ち上がった秋月道哉は、役員の方々が止めるのも構わずに荒々しい足取りで桂木さまの元へ歩み寄る。そして沈黙を守る彼の肩をぐい、と掴んで無理やり上半身を転入生の方へ振り返らせた。
先ほどとは比にならない程の大きな罵声が飛ぶ。かくいうボクも、腸が煮えくり返るほどの怒りに身体を震わせているところだ。このまま手に持ってるコップをアイツに投げつけたいくらい。近くに桂木さまがいらっしゃるから、もしものことを考えて絶対しないけど。

「・・・、触るな・・・」
「な・・・! なんだよ! 一緒に食べたほうがみんな楽しいだろ!? 二人じゃ寂しいと思ったから誘ってるのに、そんな風に言うなよ!」

桂木さまの声・・・! って喜んでる場合じゃなくて・・・! あまり喋らない桂木さまが声を発してまで拒否してるというのに、今の言葉で更に怒ったらしい秋月道哉は更に怒鳴る。あまりにも非常識な暴言に、逆にこちらがポカンとしてしまった。

喚き続ける秋月道哉。ちょっと誰でもいいから! ここから桂木さまを救い出して!





2010/03/08/


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