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(とある一般生徒視点)



その時僕は、無駄に豪華な食堂の片隅で何人かの友人と食事を摂っていた。

いつもは明るい食堂も、今はピリピリとした空気に包まれている。何故かっていうと、役員専用席で会長様たちが食事を摂っているからだ。いつもなら生徒会の皆様がいらっしゃるだけで、その場の空気はピンク色になる。のに最近は嫌な空気に包まれることの方が多い。なぜなら会長様たちに、オタクとしか言いようがない見目の悪い生徒が引っ付いているからだ。

転入生であるその生徒、僕と同じクラスである秋月道哉君への罵詈雑言が飛び交う食堂。美味しい料理も全然美味しくなくなるから不思議。チワワみたいな可愛らしい生徒は、秋月君をこっそり睨みつけつつ悪口をヒソヒソと呟いている。身体の大きいゴツめの生徒は、拳を握り締めて堂々と秋月君を睨みつけていた。
この学園ではごく一部だけど、親衛隊に所属していない僕たちみたいな普通の生徒の中でも、あまり彼のことをよく思ってる人は少ない。
ボサボサの黒髪はだらしなくて、見る人に不快感を与える。いつだったか、親衛隊の子が面と向かって「オタクのくせに!」って言ったとき彼は、「人を見た目で判断するなんて最低だ!」と言っていた。でも彼の場合、改善の余地がある見目の悪さである。あそこまでいくと、最早マナーといってもいいんじゃないんだろうか? ある程度身嗜みを整えるのは、立派なマナーだと僕は思う。その後親衛隊の子は、秋月くんの近くにいつも控えている不良の雨宮くんにすごまれて泣きそうになってたけど。まああれは親衛隊の子の言い方も悪かったと思う。
それに、彼と同室の桂木稜くんだってあんなに嫌がってるのに、彼は凄く凄くポジティブに受け取って「照れ隠し」とか思ってるみたいだし。迷惑がってるってわからないのかな? 空気の読めない人は誰でも敬遠するよね、普通に。なんで生徒会の皆様があんなに夢中になるのかわからない。
それでも、親衛隊のように苛めたいとは思わないけど。

なにより、僕が生徒会の中でも一番尊敬している、桂木陸さまは秋月君に見向きもしてないようだから、どうでもいいや。桂木さまを最後の砦に考えてる生徒は多い。
普段から、他の生徒会の皆様以上に近寄りがたい神聖な空気を纏った桂木さまだからこそ、どうか彼だけは秋月君に夢中になりませんように、そう願う人ばっかりで。

友人達と談笑を楽しんでいると、急に食堂が沈黙に包まれた後、ざわりと揺れた。なんだろう? みんなと目配せをして首をひねり、入り口に目を向ける。

そこにはなんと、風紀委員長の麻埼譲さまと、今考えてたばかりの生徒会書記、桂木陸さまがいた。

食堂の空気が揺れる。当たり前だ。だって桂木さまは、人の多いところに姿を現さないことで有名だから。人が集まるところの代表格ともいえる食堂に、桂木さまが現れるなんて・・・! 風紀委員長の麻埼さまが、親しげに桂木さまの手を引いているのにも驚いた。

食堂にいる誰もが、驚きすぎていつものようにキャアキャア叫べないで居る。いや、驚き以上に桂木さまの纏う空気があまりにも静か過ぎて、なんだか叫ぶのは気が引けるのだろう。サラサラの黒髪を揺らして、桂木さまは歩みを進める。どうやら役員専用席に向かってるみたい。・・・でも待って、あそこには今・・・。

「あ! 陸じゃん! メシ食いに来たのか? 一緒に食べよーぜ!」

秋月君がいるんだった。最悪・・・!
桂木さまの下の名前を馴れ馴れしく呼んだ彼に、今までは控えめに飛び交っていた悪口が、大きな声で叫ばれる。途端に騒がしくなった食堂。

ぎゃあぎゃあと喚く親衛隊の生徒達に、このときだけはすごく共感した。





2010/03/08/


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