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(主人公視点)



会計が会議に出席していることを願って、でも走って向かった文化委員室に、やはりというか会計の姿はなかった。いや、会議に関する書類が机の上に残されてた時点で、出席してないって予想ついてたけど。一縷の望みにかけてたというか・・・。

溜息を吐きそうになるが、時計を見たら会議開始時刻を大幅に過ぎていたので それを無理やり飲み込む。遅刻してきた上に溜息なんて、心象悪いと思ったから。

一歩室内に足を踏み入れれば、ざわりと部屋の空気が揺れた。揺れたのは判ったが原因は判らなかったので無視することにする。というか、開けた扉付近にいる生徒は一体なんだろうか? 驚いた顔をしてこちらを見ているのだが・・・。あまり顔を凝視されるのは好きじゃない。自分に集まる目を意図的に無視。
それから各委員会委員長の顔位は把握してるので、不機嫌そうなでもちょっと吃驚したような顔をした文化委員長、木野尊先輩の元へ向かって、謝罪の言葉を述べた。

「な・・・、お前は、桂木、陸・・・!?」

和風な男前、木野尊先輩は驚いた顔をする。謝罪に関してはスルー。・・・まあ確かに会計待ってたら書記が来たんじゃ、吃驚するか。

「、・・・会計、は、用事があって、・・・代理で、」

ここに来る途中で顧問のところに寄って、代理印も貰ってきた。本当は正式な書類とかいるんだけど、生徒会室に誰も居なかった事とかを説明したら溜息吐いて受理してくれた。その時に色々無理難題押し付けられて時間がかかったわけだけど。本当なら四時ちょい過ぎにはこれたのに、顧問め。・・・無理難題がなにかっていうと、役員達に連絡いれてそれまで書類の処理を頼む、っていう内容だった。ムリ。役員達に連絡をいれる? 無理。その話し合いで長引いてしまったのだ。

一つだけあいてる席に腰掛け、会計の机から取ってきた書類に再度目を通す。机の上に配られてあった書類も読んで、顔を上げたら文化委員長と目が合った。

「・・・新歓の、・・・スタンプ、ラリーの詳細・・・を、」

こちらを凝視する委員長に内心首を傾げつつ、書類にでかでかと書かれた「スタンプラリー」という文字に疑問を持つ。

「・・・」
「・・・? ・・・木野、委員長・・・?」
「・・・っあ、ああ。・・・今年の新歓は一年生に、スタンプを集めてもらう。用紙は各教室で事前に配ってもらい、スタンプの数は全部で十二個になるな」

委員長の視線が痛くて尋ねてみれば、委員長ははっと我に返って説明を始めた。・・・? 何なんだ?
それにしてもスタンプ十二個って・・・。

「・・・各委員長と、・・・補佐を含めた、生徒会、の・・・人数・・・?」
「鋭いな。桂木も察した通り、スタンプは各委員長生徒会役員に預かってもらう。各自の元に訪れた生徒に、スタンプを押してくれ」
「・・・すぐ、・・・スタンプが、集まってしまう、の・・・では・・・?」
「それについては今度全員が居るときにも説明するが、スタンプ所持者はスタンプを押す代わりに何か条件を出しても、それか逃げてもいい。何をスタンプを押す基準にするかは各々の自由だ。」
「・・・」
「スタンプを全部集めた者には各委員長、生徒会役員の誰かに一つだけ願いを叶えてもらえることになっている。叶えられるものに限るが。」
「・・・二年と、三年は・・・?」
「両学年は一年生の妨害係だ。一年生にはスタンプラリーの用紙と、造花を二本配る予定になっている。その造花を二本とも取られた者はそこで失格。両学年中一番多く造花を手に入れた者にも、スタンプラリーのと同じ賞品が与えられる」

説明された言葉を頭の中で整理する。まあ判りやすい内容だったので、そんなに考える必要はなかったが。それにしても、賞品が人気のある各委員長生徒会役員に願い事を叶えてもらう、というある意味豪華なゲームで、二年三年が妨害係・・・か。

「妨害方法に、決まりは・・・?」
「暴力は禁止。当日は風紀委員が見回りをすることになっている。それ以外なら自由だ。」
「・・・、なら・・・必要費は、造花、くらい、・・・。」
「そうなるな。スタンプは美術部に造ってもらうから、その分もちょっと貰うことになる。」

すらすらと進む話し合い。前日の話し合いがしっかりなされていたのか、会議というより確認というレベルである。疑問に思ったところを尋ねてもすぐ答えてくれるあたり、文化委員はかなり優秀なようである。

「費用、について、は、この用紙に・・・。」

ペラリと、一枚の書類を手渡す。学校側から出して貰える費用が書かれてあるだけの書類だ。受け取った木野委員長はその書類と、手元にある書類を見比べて一人頷く。

「これなら余裕で足りる。」
「なら、・・・もう特にないか・・・」

委員長と頷きあって、代理印を取り出す。やはり文化委員は優秀なようで、あっという間に作成された最終書類に目を通し、印を押す。その隣に委員長が印を押して、とりあえず話し合いはこれで終わり。

難しい内容でもなかったし、会計が居るのもとりあえず、といった感じだったので安心した。あまりにも詳しい話だと、分からなかったかもしれないから。ほうと安堵の息を吐き、良いタイミングでお茶をくれた生徒に顔が緩まる。

文化委員って優秀な子が多い。生徒会に一人でもこんな人がいたら、もうちょっと顔を出す気になるのにな。

新歓当日を三週間前に控えた、六月のある日のできごと。





2010/03/07/


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