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(陸視点)



「陸、譲くん。誰だったの?」

どこか疲れた気分で譲と二人リビングに戻れば、稜が心配そうに眉を顰めてこちらを見ていた。椅子から少しだけ浮いた腰は、廊下にこようとしていたことが明白で。頬を緩める。不謹慎ではあるが、稜の心配が嬉しかった。

「心配すんな、会計が来ただけだ」
「会計…って藤代さん、だっけ…?」

稜にこくりと頷き返す。

「放課後、…生徒会室、に、きて、って」
「生徒会室に…?」
「松野から召集命令だと。新歓間近になって、ようやく重い腰を上げたみてェだな」
「ああ、今週末だもんね」

なるほど、と朗らかに笑う稜。きらきらとした目で新歓かあ、と呟く稜は、新歓が楽しみでしょうがないといった風でとても愛らしかった。…兄弟の欲目とか言うな。本当に可愛いんだからな、稜は。
ほわほわと笑う稜に癒されつつ、時計の針が指す時刻を確認して寝室へ足を向ける。

「陸?」
「…制服、…ベッドに、ぬぎすてた、から…」
「もうそんな時間? あっ!」
「 ? 稜?」
「いけない、灯と海斗の部屋にカバン置いてきちゃった…!」

制服を着てはいるが、そういえばカバンが見当たらない。わたわたと慌てだした稜に苦笑をこぼす譲。

「一緒に登校したかったけど、先に行くね!」

譲と俺が止める暇もなく食器をシンクに運んで、稜が玄関へ駆け出す。慌ててその後ろを追いかけて、扉に手をかける稜の後姿に声をかけた。

「っりょ、う! …いって、らっしゃい…!」

取っ手にかけていた手をピクリと反応させて、ワンテンポ遅れで稜が振り返る。

「行ってきます、陸! あ、譲くんも!」

オレはオマケか。呟く譲も、笑みを含んだ声。きらきらとした笑顔を振りまいて、稜が扉の向こうに姿を消した。

「…いってらっしゃい…」
「言えてよかったな。」
「…う、ん…」

ぐしゃりと頭を譲に撫でられる。前回は譲に言葉をとられてしまったけれど、初めて言えた「いってらっしゃい」にむず痒い気分になった。ふわふわとした気分で、頭を撫でる譲のてのひらに擦り寄る。

挨拶って、良い言葉だよね。

緩む頬をそのままに、しあわせだと微笑んだ。




2010/12/19


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