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(第三者視点)



稜に淹れて貰った紅茶を飲みながら、朝食を摂る二人をじっと見つめる陸。

麗らかな朝日のなか、時折会話を交わしながら流れる静寂にゆったりとくつろぐ。くあ、と欠伸をこぼして紅茶をまた一口。

「そういえば陸、なんで譲くんのシャツだけだったの?」
「服、もってくるのを、…わすれ、てた、から」
「あー、そうそう。陸が風呂に入った後に気付いたんだよな。下は貸したけどサイズがゆるゆるすぎてたから…大方寝てる間に脱げたんだろ」
「ああ、陸って寝相ちょっと悪いもんね」

ね、と首を傾ける稜に頷きを一つ返し、カップに口をつけながらテーブルをみつめる。二人の会話に耳を傾けつつ、たまに口をはさみつつ。譲と稜の意識が自分に向いていないことを確認して、テーブルに手を這わせる陸。
目指すは目の前に盛り付けられているサラダとスクランブルエッグ。陸の分、と笑顔で稜に渡されたときにどうしようかと困って迷って悩んで、結局食欲が湧かないための強硬手段。

ちょいちょい、と指先で皿を押しやる。二人がテーブルを見てないことを再度確認して、大皿に近づけたその皿を斜めに傾けようと、「陸」
ぴたりと、陸の動きが止まる。大皿に移そうと自分の皿を中途半端に傾けたまま、目だけを恐る恐る稜に向ける。目が合った瞬間にこりと笑いかけられて、ぴゃっと陸が目をそらした。

「陸、いま何しようとしてたの?」
「…う、え…そ、その…」
「それ、陸の朝御飯だよね?」
「…え、えっと…」
「もしかして、陸」

「大皿に移して朝食を無かったことにするつもりだな」

じりじりと笑顔の稜に顔を俯かせていく中、横からも声が飛び込む。目を向ければ譲が呆れたような笑顔を浮かべていた。

「…おなか、すいて…な、い」

しゅん、と落ち込む姿にキュンという胸の高鳴りが二つ響いた気がする。まあそれはともかく、落ち込む陸の姿にときめきつつも一つ溜息をこぼして稜が箸をとる。陸の皿に乗るブロッコリーを摘んで、ひょいと陸の口に近づけた。

「陸、あーん」
「…う、」

首を僅かに仰け反らせる。あーん、と稜に微笑みかけられて眉尻を下げる。困った。

「陸、…食べたくないの?」
「…ん、…」
「でも、朝食食べないと元気でないよ。ただでさえ小食なんだから、これくらい。ね?」
「…稜、…ん、…」

暫く稜を見つめた陸は、ぱかりと口を開く。それにぱっと明るく笑って陸の口の中にブロッコリーをおさめる稜。ゆっくり咀嚼する陸に嬉しそうに笑いかけ、次いで譲がスクランブルエッグを口元に運ぶ。それにも口を開き、少しずつ朝食を消化していく陸。

「…ふ、おなか…いっぱい」
「十分だ。よく食ったな」

えらいえらい、という風にぐりぐりと陸の頭を撫で付ける譲。二人を笑顔で見つめつつ、稜は二杯目の紅茶を淹れて陸の前に差し出す。


ドンドン

不意に、扉がノックされる音が響いた。すこし乱暴さの目立つ音に小さく眉を顰め、部屋の主である譲が立ち上がる。不思議そうに首を傾げる陸と稜をみてすこし笑い、リビングをでて玄関へ向かった。


「おはよう、麻埼」
「ンな朝っぱらから何の用だ」
「そんな怒った顔しないでよお。それよりさ、麻埼うちの書記見てない?」
「…陸がどうしたって?」
「昨日部屋に行ったんだけどいなくてさあ。今朝もまだ帰ってきてないみたいなんだよねえ」

リビングと玄関を隔てる扉の隙間から、聞き覚えのある声が聞こえてくる。首を傾げていた陸はその声に反応して席を立った。見上げる稜の頬を一撫でして、玄関へと向かう。


扉を開く。短い廊下の向こう側に、譲の後姿とやはり見知った姿をみつける。

早朝の訪問者は、陸の姿をみてぱっと目を輝かせた。紅茶色の目を細めて、緩やかに口端を吊り上げる。


「陸、見つけた」

会計の藤代茜が、ゆるやかに微笑んだ。





2010/11/29


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